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リハビリテーション医療における勘違い

もう数年前でしょうか。
EBMのオンライン研修会に参加した際、講師の先生方が雑談をされておられました。
違うオフライン研修会の話のようでした。
仙腸関節の動きでディスカッションをされておられたようです。ディスカッションの相手はAKAの先生でしょうか。
A先生が講師の先生。B先生が(たぶん)AKAの先生としますね。
B先生は仙腸関節は徒手的な操作で動くのだと主張されておられたようです。
A先生は、仙腸関節は徒手的な操作で動くようなものでは無いと主張されておられた様子。
で、A先生の提案で、エコーで確認してみようというお話になったそうです。
そして、エコーをあててみたけれど動きを確認することが出来なかった。
そのディスカッションの結論として、仙腸関節は徒手的な操作では動かないというお話になって、ずいぶんとB先生は悔しそうだったと云ったようなお話でした。

これ、A先生もB先生も勘違いされておられるところがあるのですね。

どの様な勘違いであったのかを説明する前に、少し顕微鏡のお話をしますね。

顕微鏡

顕微鏡は1590年に発明されたようです。
それまでは目で見て観察していたのでしょう。
顕微鏡が発明され、改良されるにしたがって、小さなものが観察できるようになりました。

顕微鏡の倍率と見ることができるもの


1628年、ウィリアム・ハーヴェイが血液循環論を確立して、人の血管には動脈と静脈があることを初めて報告していますが、彼は動脈と静脈をつなぐ細かい網の目状の血管―毛細血管を発見することができませんでした。この時期はどうやって循環が成立しているのかははっきりと解っていなかったのですね。
1661年、イタリアのマルチェロ・マルピーギは人体構造のうち、組織の毛細血管の中を流れる血液を直接観察しました。マルピーギによる毛細血管の発見はハーヴェイの血液循環論に決定的な証拠となったのです。
その後顕微鏡の発展と共に、より小さなものが見える様になって、20世紀に電子顕微鏡が発明されてから小さなウイルスなども可視化され、医療の世界に大きな進歩をもたらしています。
上の表に書いてある、双眼実体顕微鏡では、ウイルスなど見えなかったわけです。
医療/医学の発展は、工学の発展とともにあるのですね。

黄熱病の研究で有名な野口英世は、黄熱病の原因が細菌であると考え、研究を続けていました。しかし実際はウイルスによるもので、光学顕微鏡を用いて研究を続けていた野口英世は黄熱病の病原体を発見することができないまま亡くなっておられます。

さて、話を戻しますね。

最初に、A先生もB先生も勘違いをされておられると書きました。
エコーで動きが確認できると考えたのが勘違いなのです。

エコーで動きが確認できる場合も有るけれど、動きがあったとしてもエコーでは確認できない場合も有るという、当たり前の事をお二人ともお忘れになっていたのでしょうね。

だから、エコーで動きが確認できなかったことを、「徒手的な操作では動きが無い」と結論づけられている訳です。

普通に考えたら、「その時に使ったエコーでは、徒手的な操作を行った際の仙腸関節の動きが確認できなかった」と云うことになります。

つまり、動きが無いという証明にはなっていないのですね。
ただ、それだけのことなのです。

野口英世が病原体を発見できなかったからと云って、病原体が無いと云うことにはならなかったのと同じなのです。

ですから、最初にあったディスカッションの結論は、「あ〜この機械じゃ解んないか」が正解です。

要は、何をもってして何をはかるのかというお話で、適切なツールを用いないと計ることが出来ないものは計ることが出来ないと云うことにしかならないのですね。そして、どの様なツールにも限界はあると云うことでもあります。
そういった意味では、B先生にはかなり有利なディスカッションであったはずなのです。
動けば動きが証明できるし、動かなくても、機材の限界であると云うことになるはずです。
まぁ、こう言ったディスカッションは勝ち負けでは無く、検証のプロセスになるはずなので、ディスカッションそのものに意味があるのだろうと思うのですけれどね。

こう言ったことは結構医療の中で起こりうる勘違いであったりします。
当然リハビリテーション医療の中でも起きていたりするのです。
リハビリテーションの中でも様々な検査、計測が評価を組み立てるために行われますが、それぞれのツールで表すことの出来ることと、表すことが出来ないことを明確にしておかないといけないと思うのですね。
ここが明確では無いから、色々問題がありそうなことも多かったりするのです。
ROMの改善に注力したり、MMTを改善させれば患者さんが良くなると信じていたり。FIMの改善が患者さんの能力の全てのように取り扱われていたり。
リハビリテーションの研究などで用いられるスケールについて、「動きの質は考慮されず、定量的なパフォーマンスのみが強調されている」と考えて良いのだと思います。これが、リハビリテーション研究におけるスケールの限界であるという事で、動きの質については表すことが出来ないという事なのです。

現在リハビリテーションに用いられている検査や計測の結果は、正しい答えを提供しているのではなくて、正しい答えに見える様なものを提供しているだけなのです。

だから。
だから、多分。
多分、私たちは考え続ける必要があるのだと思うのですよ。






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