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保険医療材料(医療機器・機材)は、大きく以下の4つに分類されている。(平成5年中央社会保険医療協議会の建議書より)

評価区分:A1(包括)
① 技術料に平均的に包括して評価すべき保険医療材料(縫合糸、チューブ、ガーゼ、etc.)

評価区分:A2(特定包括)

② 技術料の加算として評価すべき保険医療材料(超音波凝固切開装置、自動吻合器、縫合器、 etc.)

評価区分:A2(特定包括)
③ 特定の技術料に一体として包括して評価すべき保険医療材料(腹腔鏡手術とトロカー、皮下埋め込み手術とCVポート、水晶体再建術と眼内レンズ 、超音波検査装置と超音波検査、etc.)

評価区分:B(個別評価) C1(新機能) C2(新機能・新技術)
④ (1~3以外で)価格設定をすべき保険医療材料(PTCAカテーテル、冠動脈ステント、ペースメーカー、ドレーンチューブ、etc.)

このうち、特定保険医療材料(保険償還価格が設定)は、評価区分B(個別評価)の④に該当するとされている。

1.特定保険医療材料とは

 保険医療機関及び保険薬局(以下「保険医療機関等」という。)における医療材料の支給に要する平均的な費用の額が、診療報酬(手技料、薬剤費など)とは別途に定められている医療材料(医療機器)のことである。

 保険診療において通常は、保険医療材料(薬事法上の承認又は認証を得た医療機器・材料)は手技料等に含まれており別に算定することはできない。しかし療養内容のうち特定された場合に限って、特定保険医療材料として別に算定することができる。

また、④の特定保険医療材料における具体的な中身として、以下のように整理されている。

◆関連技術料と比較して相対的に高いもの(人工心臓弁、etc.)
市場規模の大きいもの(PTCAカテーテル、ペースメーカー、etc.)

2.制度の根幹は包括である!

 保険医療材料の分類(評価区分)および特定保険医療材料における具体的整理項目からも見えてくるように、診療報酬制度の建付け、つまり国側の基本的スタンスは、「材料費は技術料に包括する」ということだろう。その中から、どうしても病院経済的に見合わないものを包括の対象外とするために、「特定保険医療材料」という枠組みが存在していると考える。

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 「材料費は技術料に包括する」とした制度の建付けを考えると、やはりそこには、医療費削減を主眼においた診療報酬体系が見えてくる。DPCやDPC/PDPSをそのための手段とすることで、医療従事者側の材料に対するコスト意識を高めることにも繋がる。

3.特定保険医療材料は、あくまでも特例措置

 ところで、特定保険医療材料は、現在どれくらいの数があるのだろうか?平成29年2月8日 中医協材料部会(参考1)によると、その数なんと約20万製品、約1200の機能区分に分類され、市場規模は約1兆円とある。保険償還価格は、公定価格としてこの機能区分全てに設定されている。

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 繰り替えしになるが、制度の根幹は包括であり、特定保険医療材料はあくまでも特例措置としての位置付けである。にも関わらず、莫大な製品数と機能区分が存在していることを考えると、2年に1度行われる診療報酬改定に行政がかけるコストや労力は多大なものだと想像できる。

■ 特定保険医療材料を全て包括にした場合
 可能であれば一層のこと、制度の根幹である包括に持っていきたいところだろうが、ただそうなると、医療機関側からのDoctor fee的要素である手術料(技術料)値上げの見直しをも迫られることになるだろう。 

■ 包括を無くし、全て特定保険医療材料にした場合
 
逆の発想として、現在包括の対象となっている医療保険材料を特定保険医療材料にした場合はどうなるだろうか?行政の立場からすれば、さらなる膨大な数の製品に対し機能区分を設け、保険償還価格を設定することになる。そこには、膨大なコストと労力が掛かることは想像に難くない。

 また、医療提供側の視点でみた場合、特定保険材料にするということは、手術料(技術料)に包括されている材料費を出来高にするという発想にもなる。材料ひとつひとつに保険償還価格が設定されることでコスト意識は低くなり、医療従事者側は好みの製品を使用しやすい環境にはなるだろう。

 医療機器メーカー側にしても、コスト削減を主眼においた提案から本来の付加価値重視の提案にシフトできる。しかしその反面、手術料(技術料)を低く改定される恐れもでてくることを忘れてはならない。

 国として、医療費をこれ以上増やせない中で、物(材料)に掛かる費用が増大するということは、人(手術料、人件費)に掛ける費用を削らざるを得ないということに直結してくるのだと。

4.メーカーとしての立ち位置はどうあるべきか?

 まずは、大前提として「制度の根幹は包括である」とした行政と同じベクトルで進んでいく必要がある。つまりは医療費削減に繋がる提案。しかし、医療費削減提案と聞くと、より安価な製品提案と想像してしまいがちだが、必ずしもそうではない。例えば、現在使用している提案に対し、提案物品の単価だけを見ると上がるかもしれないが、手術時間の効率化や術後の予後の回復状態がよくなれば、Totalとしてみた場合(入院費など含め)には、コストは下がるかもしれない。しかし、実際にはコスト比較を打ち出しても、中々イメージしにくい仮想のものと捉えられてしまうケースも多い。だからこそ、材料コスト比較という目に見える形での提案が受け入れやすいのも事実である。

■ 質とコストはトレードオフの関係?
 「コスト削減と聞くと、”質”も下がるんだよね?」と思われがちである。しかし本当にそうなのだろうか?と改めて考えてみる。”質”をどう捉えるかによっても変わってくるが、目に見える形での”機能性”のみにフォーカスしてしまうと、確かに質は下がるという発想に繋がる。しかし、機能性以外の部分にも目を向けて考えたらどうだろうか?利便性や安全性、効率化、持続性(治療効果としての)なども質と捉えると、「どこを優先するべきなのか?」、「果たして、そこまでの機能は必要だろうか?」といった議論がでてこないだろうか?

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 質の高い医療を目指す時に、機能性ばかりに意識が向くと、医療機器メーカー担当者の思うツボでもある。特に外資系医療機器メーカー担当者は、売上至上主義に洗脳され、自身の感情を持たないロボットのような人も多い。目の前の売上数字を伸ばすという具体的なことばかりに意識が向き、「それ何のためにやってるんだっけ?」という抽象的な本当の核心部分について考えていない人がどれだけ多いことか。「売上減少は生活に直結するから」、「売上数字伸ばして出世したいから」と言った意見をよく耳にするが、抽象的な部分を考えようともしない人は、極端な言い方をすれば本当の悪だと感じる。

 質とコストの関係性に話を戻すと、以前聞いた以下の言葉を思い出す。

「質とコストを突き詰めて医療を行っている人がどれだけいるだろうか?突き詰めた医療を行っていない中で、”コストが下がれば質も下がる”といった大雑把な議論しても意味がない。本来の医療とは、医者を含めた医療従事者側が、今まで使用してきた製品をこれまでの経験と技能によって使い続けていくことが費用対効果としては最も高くなる。質の高い医療の提供とは、必然的にローコストになるはずなんだ。」と。

 確かにそうだなと私自身も気付かされた言葉であった。医療の世界においては、「高付加価値だから高額でいいんだ!」というこの考え方がまかり通っているように思う。そうなると、高額医療を稼ぎたい企業ばかりが増えてしまう。医療機器は、パソコンや自動車と同じ位置付けで考えてはダメなのではないだろうか?

 「この医療機器を用いた手術、あなたが世界第一号です」、「この薬、あなたが世界初の投与者です」なんて言われても、患者側からしたら怖くて仕方がない。医療提供側からしても、その実効性もはっきりとしない中で、それが質の高い医療に繋がるという確証は持てないのではないだろうか?

恐怖

 私の考えとしては、医療の進歩を考えた場合、もちろんイノベーティブな製品開発は必要だと思っている。しかし、これ以上の負担増に制限が掛かけられている医療費の大枠の中で、機能性重視の偏った質への解釈からは、一旦抜け出していかなければならないと感じている。要は、メリハリだと。大事な部分(手術の処置上、絶対にミスが許されない処置)にはお金を掛ける。医療従事者側の技能とこれまでの培われた経験でカバーできる部分(特に包括に含まれる医療保険材料)には、機能性以外の部分にも目を向けていく。多少、機能性は劣ったとしても経済合理性を考えれば、コストに見合った、いやそれ以上のパフォーマンスが得られてくるのだと感じられるのではないだろか?
 
 今後、営業担当者に求められる資質としては、こういった点についてしっかりと話が出来る人であるべきだと感じるし、私自身もそこに辿り着きたいと考えている。だからこそ、自社の具体的な製品知識だけでなく、診療報酬制度や医療知識、各社製品スペックなど、業界全体を通じた話ができるように、それら歴史も踏まえ、幅広い知識の研鑽が求められてくる。

5.具体と抽象を考えた上での提案を! 

 医療現場への訪問を通じ私が感じることは、各企業の営業担当者の提案スタイルについてである。提案内容を聞いていると、その多くは細かな付加価値(特に機能性重視)にポイントを絞り、提案を行っているケースが非常に多い。例えば、「特徴は大きく3つあります。ここと、ここと、ここです!」みたいな。一見分かりやすい話に聞こえるときもあるが、そこで私は心の中で突っ込みを入れてみる。「要するにその製品とは何なんですか?」と。人は具体的な話はできる。しかし、抽象的な部分(これが物事の核心部分)について答えられる人は少ない。自分の頭の中でしっかり整理できていないために核心部分を語ることができない。だから相手にも刺さらない。さらには、相手のニーズをしっかりと汲むことができていないために、”数撃ちゃ、どれか当たるだろう”的な期待感もある。これは私自身も過去の経験から学んだことであり、今は以下のことを意識して製品の提案、情報収集を行うようにしている。

◆具体と抽象について語れるか?(特に抽象の核心部分)
◆相手の心を汲んでいるか?(本当に望んでいるであろうニーズ)

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 次回からは、具体的な手術の術式などにも徐々に踏み込みつつOutputしていきたい。私が日頃から訪問の機会を頂いている消化器外科領域を中心に、泌尿器科、婦人科、呼吸器外科領域についての学びを発信していく。例えば、消化器外科領域に関しては、部位別に食道、胃・十二指腸、小腸、大腸、直腸・肛門などに分類しながらのOutputを考えている。

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