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ネットワーク協定という厄介な代物(2020/12)

久しぶりに境治さんが主宰しておられるウェブマガジン Media Border に投稿しました。

今回は一般の方にはちょっと分かりにくいし、直接的には関係がないとも言える、テレビのネットワーク協定について書いています。あくまで業界の内部に対する呼びかけです。

なので、どうしようかと思ったのですが、過去の投稿は全部 note にも転載しているので、一応アリバイ的に(笑)、一般の方用に少し筆を入れた上で、こちらにも載せておこうと思います。

とても脂っこい話で、具体的に書くと不必要な軋轢を生んで、進むべき改革が進まない恐れもあるので、一般的な話に留めています。そのため余計に分かりにくい話になっているかもしれません。すみません。

こういうことに興味関心をお持ちの方は、毎月いろんな論評が掲載されている Media Border の有料会員に登録してみても良いかもしれません。

ネットワーク協定という厄介な代物

テレビ局の新しい事業展開を考えるときに、まず手を付けなければならないのは、法整備よりもむしろ各系列に設定されているネットワーク関連の諸協定の見直しである──と私は考えています。

私も番組配信の権利クリアの仕事に携わっているので、もちろん法整備の重要性はよく解っていますし、早く新しい法律を作って作業を楽にしてほしいと希ってもいます。でも、根本的な問題はそこにはないように思うのです。

強固に作られて、今まで系列の利益と利便性をしっかりと担保してきた諸協定が、今や不要な足かせとなっているのではないかと思います。

最初に断わっておきますが、この文章は「キー局は横暴である」と言いたいのではありません。私の勤務する在阪局と東京キー局の関係がうまく行っていないというような話でもありません(笑)

詳しくは書きませんが、私が入社した頃の昔と比べると、局間の関係はすこぶる良くなっていると思います。ただ、大昔から踏襲している諸協定、及び明文化されていないもろもろのルールや商慣習が、今の時代にはそぐわなくなってしまったという主旨です。

最大の問題点は、テレビにおいてはある時間に1つの番組を編成するとその時間には別の番組を放送することはできないということです。だから、東京から全国ネットの番組が送られてきている時間帯には、ローカル局は何もできなくなるのです。

今のインターネットの状況と比べるとなんと不自由なことかと思いませんか?

地デジ化で2チャンネル編成が可能になったときに、私はこの状況を解消する大きなチャンスだと思って、社内外でそれなりに提言したのですが、多くの関係者は既存のスポンサーと少しでも波風が立たないほうを優先しました。系列の会議で某局の人から恐ろしい形相で睨みつけられたのを今でもよく憶えています(笑)

いずれにしても、ひとつの時間にひとつの番組しかかけられないのであれば、どこかの局が大きな権限を持って何かを決めて行くしかありません。

例えばレギュラー番組放送中に大事件/大事故が起きた場合、それを途中で打ち切って報道特番に切り替えるのかどうかを合議で決めるわけには行かないのです。

全国ネットの報道特番に切り替えようとしたときに、「いや、この時間はウチの大スポンサーである県庁が提供している番組だから、飛ばすわけには行かん」などと言い出すローカル局が出てきては困るのです。

そういう意味でも協定は必要だし、キー局に権力が集中してしまうのもある程度やむを得ないことだと思います。でも、だからと言って全部をキー局に牛耳られてしまうと、ローカル局は何もできなくなります。

それで、どの系列もそうでしょうが、「ここはローカルが自由に編成できる時間帯」「ここは“マスト・ネット”の時間帯」という風に、時間で区切ることでローカル局にある程度の自由度を担保してきました。

でも、時間帯で切り分けられてしまうのは、今の時代感覚からすると、すこぶる不自由なものではないでしょうか。

それからもうひとつの問題点は、諸協定はそもそも他系列を排除して自系列の利益を守り、拡大するという考えで作られていることです。

その哲学に基づいているために、我々は他系列の局と連携したり商売をしたりしようとすることが容易にできないという問題点もあります。

またテレビを第一優先としているので、他の媒体への先出しについて、まだ抵抗感が残っている局も少なくないでしょう。また、同じ系列内であっても、制作した局より先に他局が放送するのを(たとえ30分の先出しであっても)認めない習慣も消え残っています。

他にもいろんなルールや慣習があって、それが今の時代にふさわしい方策を選べない原因になっていると私は感じるのです。

免許事業のテレビ放送という小さな井戸の中で、日々大きくなって行くパイの奪い合いをしていた時代はそれで良かったのかもしれません。でも、大海に漕ぎ出してみると、今は NETFLIX も Amazon Prime も YouTube もあって、他系列を抑え込んだら勝てる時代ではないのです。

2019年の日本民間放送連盟賞のグランプリを受賞した北海道テレビ(HTB)のドラマ『チャンネルはそのまま!』は最初から NETFLIX と提携して制作/放送/配信されました。

同局の50周年記念企画であり、本来であればテレビ朝日系列で全国放送したいところですが、1つの時間に1つの番組しかかけられないことを考え、これまでの実績も鑑みると、これだけの話数(55分×5話)を良い時間帯で枠取りするはほぼ不可能です。

だからこそこれは HTB さんのウルトラC だと言えるのですが、ウルトラC であるだけに他局にも易々と真似できることではありません。

ドラマが完成すると非常に出来が良く、それが評判になって、全国のいろんな局への番組販売へと広がっていったのですが、それを最初に買いに来た局の多くが系列に縛られない独立局だったのも皮肉なことだと思います。

そして多分、一般の方からすると、他系列の局には売れないのに NETFLIX には売れるというのも妙な感じですよね?

なんであれローカル局のこういう新しい取り組みを容易にするためにも、今あるルールや習慣を、我々は抜本的に見直して行く必要があると思います。そう、まずは総点検です。

それは、「キー局がもうローカル局の面倒を見ないのであれば、ローカル局にもっと自由を渡せ!」というような恨みつらみの理屈ではありません。過去の遺産を一旦払拭して、全ての局が自主性と創意工夫を発揮できるように、新しい時代にふさわしい新しい体制を一から考え直そうというものです。

もちろん日本各地での事件事故を全国に伝えるために、ニュース協定の維持は必要です。しかし、それはそれとして、新しい時代の新しい枠組みを作って行かなければ、我々はすでに立ち行かないところに差し掛かっているのも事実ではないでしょうか。

新しい時代の新しい方策の一つとしてインターネットの海に漕ぎ出すのは NETFLIX や Amazon を打倒するためではありません。それはインターネットと繋がり、ネット企業と絡み、ネット・ユーザと交わって、我々のコンテンツを広げて行くための方策なのです。

新しい時代には新しい方策が必要であり、新しい方策を産み出しやすい環境こそが求められるのだと私は思っています。


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