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「地球最後の日に持ち金を使い果たす」報道に思う

誤って給付された 4630万円をネットカジノ等で全部使ってしまったという 24歳の男のニュースが世間を騒がせていますよね。

で、彼が小学校の卒業文集で「もし地球最後の日が来たら何をする?」という問いに対して「持ち金を使い果たす」と書いていたことをどこかのテレビ局が嗅ぎつけてニュースにしていました。

これを見つけてきた記者は、さぞかし「いいネタ見つけた!」と小躍りしたんでしょうね。でも、それもどうなんだろう、と僕は思うのですよ。

記者は多分、彼は子供の頃からお金を使うことに執着していたと言いたいのでしょう。でもね、地球最後の日ですよ。いくらお金を持ってたって明日以降使うすべがないとなったら、僕だって誰だって、そりゃあ持ってるお金を全部使ってしまおうかと考えたりしませんか?

別に異常な発想でも歪んだ感覚でもないんですよ(ましてや彼が書いているのは「持ち金」です。他人の金を使おうなんて言ってないじゃないですか)。

ただね、その一方で、そういう状況で持ち金を使い果たせるかどうか、もうちょっと考えてみてください。

今日が地球最後だという日に果たしてお店が開いていて自分がほしい物やサービスを手に入れることができるでしょうか? 多分そんな状況ではないはずです。

多くの人は呆然としてほとんど何もできない(従って会社にも行かないしお店も開けない)か、あるいは狼狽うろたえて自棄やけになってなんか無茶苦茶なことしてる(従って会社にも行かないしお店も開けない)かのどちらかじゃないですか?

ま、中には「最後の日ぐらい皆さんに美味しい物を召し上がっていただきたい」などと言う殊勝な店主もいるかもしれませんが、そんな冷静な人はごく僅かのはずです。

だから、結局持ち金は使い果たせずに終わる可能性が高いのです。「地球最後の日に持ち金を使い果たす」というのはあまり実現性のないことなのです。

彼が卒業文集に書いたのは、むしろそういういろんなことに考えが及ばない、如何にも小学生らしい凡庸な発想なんです。

それをことさらに取り上げて、彼に金の亡者みたいな印象を植え付けようとするのは、やめたほうがいいなと思いませんか?

なんでそういうことをニュースにするかと言えば、それは多分ストーリーを作りたいからなんだと僕は思っています。

彼は子供の時からお金を使うことに執着していた
⇒ だから、間違って振り込まれた大金も一気に使ってしまう
= 小さい頃から異常な男

みたいな、とにかく分かりやすいストーリーを作りたいんだと思います。

でも、僕が聞きたいのはそんな安易なストーリーじゃありません。

彼の生い立ちや性格がどうということよりも、むしろ、そんな大金を一気につぎこませてしまうネットカジノって一体どういう仕組なのか、ユーザをどういう心理に追い込むのか――知りたいのはそっちのほうだと思います。

あと、他にもよくあるのが、「凶悪な犯罪をした男が部外者を装ってテレビのインタビューを平然と受けていた」みたいな報道ですね。とにかく極悪非道の男だというイメージを植え付けたい。

これもどうかと思うのですよ。だって、インタビューには平然と答えないと疑われて取り調べを受けるハメになるかもしれないじゃないですか。

もちろん法を犯したことは悪いことですが、そこで一旦シラを切ると決めたのであれば、誰だって平然と答えようとしますよ。平然と答えたこと自体は当然とは言わないけれど、むしろ必然じゃないかな。

逆に、テレビ局にマイクを向けられてしどろもどろになったりしようものなら、「こんな小心者のくせに、一方でこんなえげつないことをする性格異常者」みたいな描き方をされかねません。

どうしてもそういう面白おかしい、あるいは扇情的なストーリーを作ろうとする人たちがいるわけです。たまったもんじゃありません。

あと謝罪会見なんかの場で、一体何様のつもりなのかと訝しく思うぐらいの一方的な糾弾をする記者もいます。

これなんかは記者が自分の正義感に酔っているようにも見えるのですが、それだけじゃないと僕は思うのです。これも分かりやすいストーリーづくりの一例ではないかと思うわけです。

報道関係者のそういう発想をゲスな発想だと指弾する人もいるでしょう。

でもね、よくよく自分を顧みてみると、僕だって、あるいはこれを読んでいる皆さんだって、ついつい分かりやすいストーリーを作ってそこに嵌め込んで考えてしまうことって結構あるように思います。

いや、だからニュースもそれで良いというのではありません。

そういう発想の報道って、もう要らないなとつくづく思うのです。みんなと同じ悪弊に陥ったニュースなんて何の値打ちもないなと思うのです。

ニュースはむしろ、「一見そういう風に思うかもしれませんが、よく考えてみたらあんなことやこんなこともあり、必ずしもそんな単純なものじゃないでしょ?」みたいなことを語りかけてくれるものであってほしいな、と思うのです。

僕は報道の経験がないので、ベテランの報道マンがこれを読んだら、「いやいや、やまえー(僕のこと)、それは少し違うぞ」と言うのかもしれません。もしそうなら、公開の場でそう言ってください。議論しましょう。

そう、安易な発想に嵌らずにに冷静に議論ができたなら、世の中は確実に良くなると思うのです。

うっかり納得してしまいそうなことでも、冷静に考えたら実はそうじゃないことって、意外に多いと思いませんか?


この記事 ↑ と同様に、自分が門外漢である報道について、こんなことも書いたりしていました:

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