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出張を考える ──変わってきた私自身の意識

ウチの会社の場合、昨今のコロナ・ウィルスの影響ではなく、その少し前から、業績不振への対策として、出張自粛の要請が出ています。

経理曰く、「会社が大変な時期ですから、その出張が本当に必要なのかどうか、もう一度よく考えてください」等々。──私はそれを聞いて鼻白みます。

結構なことです。そう思うのであれば経理の諸君は今日から必要最低限のことだけやって生きて行けばよろしい。飯食って寝て。あ、セックスは必ずしも必要でないです(笑) さぞや豊かな人生でしょう。

しかし、そんなことを言いながら、実は私は若い頃、出張が大嫌い、と言うか、大の苦手でした。それが私たちの世代の傾向だったのか、それとも私一人がそうだったのかは、今となっては分かりませんが…。

とにかく会社の代表として、独りで遠隔地に乗り込み、独りで説明し、説得し、判断し、リアクションするというプレッシャーに耐えられない、と言うか、独りでそんな全てをこなすことがとても怖かったのです。

ひとつには、それは私が強烈な苦手意識を持っていた営業職に就いていたということもあると思います。自分のやることに自信なんか全く持てていませんでしたから。

そして、営業というセクションにいた宿命で、出張に行った限りは相手を説得してセールスを成功させ、あるいは交渉をうまくまとめなければ、というプレッシャーにがんじがらめに縛られていたのも確かです。

そして、もうひとつには、まだ携帯なんてなかった時代だということもありました。今みたいにすぐにそこから誰かに電話をして相談したり指示を仰いだりなんてことができなかったわけですから、とにかく瞬発的な判断力が必要で、当然自分の個人的な能力への負担がかかります。

生まれた時から携帯電話があったという若い人たちには想像がつかないかもしれません。そんなもの、どこか近くの電話からかけてみれば良いじゃないか、と思うかもしれません。

しかし、訪問先の固定電話を借りるのは抵抗がありますし、うまい具合に近くに公衆電話があるとは限りませんし、初めて行った土地ではどこに公衆電話があるかも知らないわけですし、それよりも何よりも、会社に電話をしたところで、当の相談したい人を捕まえられるとは限らないわけですから。

そんなに自信がないのであれば、上司と一緒に行けば良いではないか、と思うかもしれません。

しかし、上司と一緒に行くのはこれはこれでめちゃくちゃ鬱陶しいのです。今とは時代が違います。多分、今上司と一緒に出張に行くより遥かに鬱陶しかったと思います。

会社に出勤した日は退社した途端に上司とサヨナラですし、最悪飲みに誘われたとしても店を出たらそれで終わりですが、出張中は行きも帰りも交通機関は一緒ですし、泊まるとなると晩飯も一緒、ホテルも一緒、飯のあとどっかに飲みに行って、下手したらそこで説教食らって、やっと宿に戻ったら、部屋でもうちょっと飲もうと言われたり、翌日の朝食も一緒…。

昔の上司は今より遥かに部下を拘束したし、押さえつけましたし、部下は今より遥かに上司に気を使っていましたから。

そういうわけで、なんであれ、若い頃の私は出張が大嫌いでした。

ところが、自分が中間管理職になってみたら、毎年入ってくる新卒の社員がよく「早く出張に行きたい」などと言います。一人二人ならまだしも、何人もの若手がそんなことを言うのを聞いて、私は我が耳を疑いました。

こいつら一体何を考えているのか? 頭の中がどうなっているのか、端のほうで構わないので頭蓋骨をちょっとスライスさせてもらえないか?と思ったほどです。

なんだか分かりませんが、最近の若い人たちは自分が何かをできると考えているのですね?

私には自分が何かをできるなんて思いはこれっぽちもありませんでした。いや、それどころか自分は労働に向いていないと思ってましたから(笑)

ところが、まあ、さすがに何十年も働いていると、だんだん出張の効用も、出張の楽しさも分かってきました。実際の仕事の中で、直接出向いて会って話すことによって案件がスムーズに運ぶ実例をいくつも見てしまったのです。

でも、それだけではありません。そんな風に考え方が変わってきたのは、多分会社にビクビクしなくなったということなのだろうと思います。

若い頃は、自分がひとりで出張に行って失敗をして、会社に多大な損害を負わせたり、得べかりし利益を逃してしまったらどうしよう、責任重大だという思いがありました。

それが次第に「会社がなんぼのもんやねん」という思いに変わってきました。会社なんて我々社員がいるから初めて機能するのであって、我々がいなければすっからかんの入れ物に過ぎません。「入れ物のくせに偉そうにするな!」と思えてきたのです。

私は会社を代表して出張に行くのではなく、会社のために働いているのでもありません。私が動くことによって会社が動くのです。私の動きが会社の動きを作り出しているわけです。

そんな風に考え始めて以来、会社という実体、人格のないものに対してビクビク、ヘコヘコするのはやめにしました。

意味がある、効果があると判断すれば、お金も使いますし、出張にも行きます。それに異議があるのであれば、会社などというものを笠に着ずに、対等な社員のひとりとして正面から言って来いよと思っています。

そういうわけで週明け、ほんとに何ヶ月ぶりかで出張に行ってきます。リモートはリモートで充分に活用していますが、それでもやっぱり直接会って話をする効用があると実感しているので。

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