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不要不急の新しい届け方

報道志望の人はどうだったのか知りませんが、私の場合は言わば“不要不急のこと”を仕事にしたくてテレビ局に入社したので、昨今の情況には大変つらいものがあります。

在宅率が高くなって視聴率が少し上昇するという現象も確かにあるにはあるのですが、最初は中国の下請けに大きな部分を発注しているアニメの放送素材が間に合わなくなるという事態が起こり、そして、いつしか日本でもドラマの撮影を延期しなければならないところまで来てしまいました。

我々はマスを相手にした商売をしていますが、そのコンテンツを作る側としても大勢の人間が寄ってたかってやっています。出演者だけではなく、D や AD はもちろん、音声さん、照明さん、美術さん、社員も派遣も請負もフリーランスも入り乱れて大勢が寄ってたかってやっています。

今や大勢が集まるということが許されないどころか、たとえテレビ番組の中であっても出演者同士の距離が近いことさえはばかられます。地デジ化の際によくぞ画面を 4:3 から 16:9 の横長にしておいたものだと、冗談ではなく、思います。

そして、テレビ番組の大切な供給源でもあるスポーツの大会や音楽のライブ、演劇その他の文化イベントも軒並み“不要不急のこと”と認定されて中止や延期になっています。いや、映画界だって同じだろうし、もっと広く、全てのサービス産業、接客業が窮地に陥っていると言うべきでしょう。

でも、我々の両親や祖父母の世代が、戦争が終わったときに「もう『欲しがりません勝つまでは』みたいな国は嫌だ」と考えて、必死になって働いて、そのお金で楽しめる環境を一生懸命築いた結果が今の世の中なのです。

それを思うと、もちろん新型コロナウィルス対策に協力したくないなどとは言いませんが、一方でなんだか時代が逆戻りしてしまったような哀しさがあります。

ただ、幸いにして、この何十年間でいろんな技術が開発され発展してきました。例えばインターネットがそうです。だから、観客を入れられなかった公演を、代わりにインターネットで配信するというようなことができるようになりました。

今だと、それぞれのメンバーが別の場所にいても全員でバンドの演奏をして配信できるような環境が、しかも簡便に、お金もかからずにできるようになりました。みんながいろいろな対応を考えています。新しい不要不急の届け方を編み出そうとトライする人たちが出てきています。

スポーツなのか音楽なのか演劇なのか、あるいは別の何かなのかによって、イベントやコンテンツ作りの形態が違うので、安直に「お前らも全部配信すれば良いじゃないか」というわけには行きません。どうしても同じようにできないものもあるのです。

それに、ライブで見られるからこそ1万円でも払ってくれるわけであって、1万円払って動画を見てくれる人はそうそうおらず、だから、配信で経費を回収できるのはレアなケースです。

でも、配信以外にも、あるいは単なる配信だけではなく、VR や AR、さまざまなビジュアル・イフェクト、ロボット技術、AI…、他にもまだまだあるでしょう、いろんなものを組み合わせれば新しい見せ方はできるはずだし、いや、そもそも今までとは違う発想で組み立てられた新しい形態の番組/コンテンツを開発しなければならないし、それができる時代だと私は思っています。

それに向けて、我々のような会社は“必要かつ火急の対策”を練って行かなければなりません。まだオタオタするばかりで追いついていない面も多いと思います。でも、直接番組制作に関わっていない私のような人間も含めて、みんなで一生懸命考えて行きたいと思っています。

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