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小説とかドラマとか映画とか

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他のマガジンに含めていた映画評や書評などを抜き出してここに独立させました。
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2006-2023「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」

「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」という記事を毎年自分のブログに書いています。そして、そのリストを note にも、毎年最新分を追記して新しい記事として、ここに上げています。 文章まで転載すると長くなるので、note では表題と順位だけにしています。もしもご興味がありましたら、リンクをたどってブログの記事をお読みください。 さて、その選考基準は下記の通りです: 以下がそのリストです。タイトルの後のカッコ内の数字はキネマ旬報ベストテン投票にお

著作権法をめぐるすっきりしない思い

この記事は「自分のブログに映画の場面写真を勝手に貼るのは著作権法違反だからやめましょう」という記事ではありません。「なんか、もっと明確な新しいルールを策定できないものか」という嘆きです。 映画の鑑賞記事の横にその映画の一場面の写真が添えてあるというのは我々がしょっちゅう目にする光景です。 でも、映画会社の許諾を得てやっているのでない限り(あるいは権利者が権利フリーを謳っているのでない限り)、それは明らかに著作権法違反です。違反だと知らずにやっている人もいるでしょうし、知り

「小説とか読む意味ってなんですか?」という問いに答える

先日、知人(とても有名な人です)がある若い人に と訊かれたという話を facebook に書いていたのですが、それを読んで、僕はかなり驚いてしまいました。 ひとつは という驚きであり、もうひとつは という驚きです。 僕は読む本の大半が小説です。直近の50冊を調べると29冊が小説でした。評論も結構読んでいます。でも、それらは読む前から何かの意味があって、あるいは何かはっきりした効果を求めて読んだわけではありません。 もちろん何かのために何かを読むこともあります。

ほんとの写真じゃない、ほんとのドラマじゃない

ほんとの写真じゃない昔、僕の撮った写真を見たある人に、「でも、こういうのは、ほんとは写真とは言わないんだよね」と言われたことがあります。 彼としては思ったことをポロッと言っちゃった感じで、悪気は全くなかったんだと思います。「こんなもんは」とは言いませんでしたから(笑) 一方、それを聞いた僕がムッとしたかと言うとそれも全くなくて、「ああ、なるほど、写真好きの人にとってはそうなんだろうな」と思いました。 どこが「ほんとは写真じゃない」のかと言うと、それは一旦撮影した後でい

映画『劇場版モノノ怪 唐傘』と『めくらやなぎと眠る女』

映画評については、僕は自分のブログにだけ掲載していて、ここ note には何かのお題に応募するとき以外は上げないのですが、最近書いた2つの映画評(僕は「感想文」ではなく「評」だと思っています)が、映画の見方等に関して今まで note に書き散らしてきたことと密接に通じ合っている気がしたので、ちょっとここにも併載してみることにしました。 以下がその2つです: 映画『劇場版モノノ怪 唐傘』映画『劇場版モノノ怪 唐傘』を観てきた。 テレビでシリーズ化されていた番組の映画化とい

「板に焼く」文化の終焉──ソニーグループの光ディスク生産終了に思う

ソニーグループがブルーレイディスクなどの光ディスクの生産を段階的に縮小させ、終了させるとの報道にいささかショックを受けています。 そうか、ブルーレイディスクが売れない時代になったのか、"板に焼く"文化の終焉なんだな、と思いました。 なにしろ僕らは中学生時代にカセットテープにテレビの生音をマイクで(つまり、コードに接続せず、っちゅうか接続端子もなかったし)録音するところから音楽体験をスタートした世代ですからね。 当然周囲の音も拾ってしまうので、「ちょっと、お母ちゃん、暫く

『九十歳。何がめでたい』という表記について考えた

先日、映画『九十歳。何がめでたい』を観ました。昨年 100歳を迎えた作家・佐藤愛子を昨年 90歳をに達した草笛光子が好演しています。 とても良い映画でしたが、今回は映画の中身についてではなく、映画(かつ原作のエッセイ集)のタイトルについて思うところがあって書きました。 マル(。)は打たないそれまで僕は佐藤愛子の本を読んだこともなかったのですが、そのタイトルを見てさすがに佐藤愛子は昭和の大作家だなと思いました。 表題には句点(。)を打たないのです。 いやいや、「九十歳」

面白くない映画を観てしまうのは「失敗」であり「無駄」なのか?

年を取ってしまった今、若者との価値観や感じ方の違いについていろいろ考えます。例えば『映画を早送りで観る人たち』を読んだ際にも書きましたように、 ネタバレを読んでから映画を観に行くというような行動は、僕には信じられないものだったわけです。 彼らが言うには、とにかく「失敗したくないから」「つまらないものを観て時間を無駄にしたくないから」とのこと。 じゃあ、僕らの世代、と言うか、僕はどうしてそういうことをしないんだろうかと考えてみました。 もちろん僕だってハズレは掴みたくな

映画の収支予測は入場料の平均単価を何円で計算しているか?

今週の火曜日に映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』を観てきました。 これ、僕らの世代だと「見んとあかんやつ」なんですよ。いや、僕らの世代じゃなくても、加藤和彦という人は 1960年代後半から 21世紀にかけての日本のミュージック・シーンを語る上で絶対外すことのできない巨人ですからね。 でも、これから書こうとしているのは映画の内容ではなく、客層の話です。 加藤和彦のドキュメンタリですから、当然観に来ているのは彼の音楽をリアルタイムで体験した人たち──つまり、大体は僕

映画や小説について、僕や僕らの世代が思うこと

このマガジン(「小説とかドラマとか映画とか」)を読み返してみると、映画の見方や小説の読み方などについて、僕はいろんなことを書いちゃっています。例えば… カメラの動きを意識して映画を観るともっと楽しめるよ とか、ネタバレ映画評のほうが良いってほんと? とか、『映画を早送りで観る人たち』を読んで呆然と立ち尽くした とか、ハッピーエンドにしないでほしい とか、伏線を回収しない終わり方のほうが好きだ とか、オープン・エンディングを糾弾するよりも大切なことがある とか、主

フリーレンの登場人物たちの名前の意味

かく言う私もそのひとりですが、日テレのアニメ『葬送のフリーレン』が終わってしまって、フリーレン・ロスに呆然としている御仁も少なからずおられるのではないかと推察します。 ある人の note で、フリーレンという名はドイツ語の frieren という動詞(英語の freeze に当たる;「凍らせる」の意)から来ているという話を読みました。 そう言われると、他のキャラクター名もドイツ語っぽい響きを持っていますよね。ひょっとしたら全員かもしれません。 幸いにして私の大学時代の第

オープン・エンディングを糾弾するよりも大切なこと

オープン・エンディングというものが今や批判の対象になっていると知って大きなショックを受けました。日本がまさかそんな社会になってきているなんて、夢にも思いませんでした。 僕がそれを知ったのは朝日新聞での「映画『怪物』クィアめぐる批判と是枝裕和監督の応答 3時間半の対話」という記事(有料)でした。 是枝裕和監督、ライターの坪井里緒氏、映画文筆家の児玉美月氏によるこの鼎談で議論されているのは、主に「クィア」をめぐる表現や発信のあり方についてであり、それはそれでとても意義の深いも

2023キネマ旬報ベストテン得票分析

これは自分のブログに毎年書いている記事なんですが、今回(2023年度分)は割合分かりやすい結果が出たので、note にも転載することにしました。 以下がその記事の全文です: 【2月9日 記】毎年恒例のキネマ旬報ベストテンの得票分析をしてみます。 キネマ旬報ベストテンは、審査員がそれぞれ合計55点を持って、1位には 10点、2位には 9点、…、10位には1点と入れて行き、その合計得点で順位が決められています。今回 2023年第97回の審査員は、前回と同じく「本誌編集部」を

2012-2023邦画:私の「掘り出しモノ賞」

2023年度の掘り出しモノ賞には『交換ウソ日記』を選んでおこうと思います。 掘り出しモノ賞というのは、かつて twitter ベースの映画賞であった coco賞の投票部門の一部で、自分が勝手に作った賞に投票できるという企画でした。 僕は毎年「掘り出しモノ賞」と名前をつけた賞に投票してきたのですが、このサイトがなくなった今でも、そのコンセプトが大変気に入ってしまって、引き続き勝手に選び続けている次第です(笑) 今年見た 60本の邦画の中からこの映画を選んだのは、いつもは大