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「レバレッジ方式」を考える~Toward 2025~

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どうも、やまけんです。

今季から吉井理人新監督が就任した千葉ロッテマリーンズ。吉井監督と言えば、投手コーチ時代に「コーチング」「原則3連投禁止」などに代表される従来の野球界の常識を打ち破るような指導や投手運用を取り入れ、各チームの投手陣の強化を推進してきたことで有名かと思います。また、選手を尊重し、時に監督と衝突することもあったとされる吉井“コーチ”が今季から“監督”に就任するということで、その方針にも注目が集まります。

そして早速、吉井監督が掲げた方針で興味を惹かれるものがありました。それが、リリーフ投手陣に適用する予定の「レバレッジ方式」です。

あまり聞きなじみのない、というより今回初めて耳にした方も多いのではないかというレバレッジ方式について、今回は考察してみたいと思います。

「勝利の方程式」とその弊害

野球界では、1990年代から試合の終盤に投げるリリーフ投手の継投パターンの呼称として「勝利の方程式」というワードが用いられてきました。その後、両リーグで中継ぎ投手に記録される「ホールド」が公式記録となった2005年頃から、各球団の固有の継投パターンに「JFK」「SBM」「スコット鉄太朗」などファンに親しまれるような愛称がつくケースも増え、存在の大きさとその役割の重要性が認識される機会になったのではないかと思います。

このnoteを読んでいただいているロッテファンの方に馴染みが深いのは、やはり薮田安彦・藤田宗一・小林雅英投手による「YFK」でしょうか。

勝利の方程式はその名の通り、勝利の可能性を高めるための継投手段として力を発揮する一方で、特定の投手への負担の集中が懸念されます。実際に、前述の「JFK」の一角を担った阪神タイガースの久保田智之投手は2007年に歴代最多のシーズン90試合登板を記録しています。
試合の重要な局面を任されるリリーフ投手はチームとしてそれだけ替えの利かない存在であることが感じ取れますが、任された投手にかかる肉体的疲労、また精神的疲労は計り知れません。

レバレッジ方式

レバレッジとは?

ここで、レバレッジという単語の持つ意味について掘り下げます。

レバレッジ(英:leverage)には「てこの作用、てこの原理」という意味があります。てこの原理と言えば、小学校の理科で学んだように、小さい力で大きなものを動かす仕組みのことを表します。
このことから派生し、現在では投資の世界で「少額の資金で大きなリターンが期待できること」というニュアンスでも使われているようです。

野球におけるレバレッジ方式について考える

「レバレッジ」という単語そのものの持つ意味についてなんとなく掴めてきたかと思います。これを野球の世界、中でも吉井監督が適用する意向を示しているリリーフ陣の世界に置き換えると

小さい力・少額の投資→投手にかかる負担・労力
大きなリターン→好救援(ホールド・セーブ)→チームの勝利

と当てはめられるのではないかと自分は考えました。

このことから、吉井監督の掲げるレバレッジ方式を定義化すると「投手にかかる負担を抑えながらチームが勝利する可能性を1%でも高めるリリーフ投手運用」となるのではないかと思います。

「勝利の方程式」として試合終盤の特定の回を任される投手たちの中にも、実際には日によって調子の好不調があったり、相手打者との相性があったり、常に100%抑えられるとは限りません。
9回に固定されている抑え投手が、いつ、どのチームとの試合でも9回にベストなパフォーマンスを発揮できるとは限りません。

また、特定の投手へ負担が集中することで、シーズン終盤にパフォーマンスが低下したり、故障リスクが増加する可能性も当然あります。

勝利の方程式を構築するのは試合に勝利する可能性を少しでも高めるためであり、起用法を固定した結果負担が集中して敗戦につながるようでは元も子もありません

より少ない負担で相手打者・打線を抑えられる可能性の高い投手を投入することがシーズンを通じたチームの利益の最大化につながる。このような仮説が、レバレッジ方式の導入につながったのではないかと考えられます。

吉井流投手運用

ここで、吉井監督のコーチ時代の投手運用について思い返してみます。

吉井監督はコーチ時代から「投手が常に良い状態でマウンドに上がれるように」と投手の登板管理を徹底していました。とりわけリリーフ投手の連投や回跨ぎには細心の注意を払っており、セーブやホールドがつく局面でも連投中の投手の起用を控えて別の投手を起用するなど、目先の1勝だけに拘らない、シーズン全体を通じた最適解となるような投手運用の手腕に長けていたと思います。
目の前の場面や状況、投手の調子や相手打者との相性だけでなく、こうした大局観を持った投手運用に関しては他の投手コーチとは一線を画すレベルだったのではないかと思います。

「レバレッジ方式」という聞き慣れないワードが出てきたせいか、何かすごく革新的な作戦を取り入れるかのように感じますが、本質的には吉井監督がコーチ時代に実践してきた投手運用と大きく変わらず、「吉井流投手運用」の応用版とも言えるのではないかと自分は考えます。

※コーチ時代の吉井監督の投手運用についてnoteで深掘りされていた方がいらっしゃったので、リンクを載せさせていただきます。

レバレッジ方式導入の裏にある「反省」

吉井監督がレバレッジ方式導入を決断した裏には、自らの反省の意も込められているのではないかと思います。それは、マリーンズのクローザー・益田直也投手に対してです。

吉井監督がコーチを務めた2020年と2021年、マリーンズは2年連続2位でレギュラーシーズンを終えています。この中で益田投手はクローザーとして20年に54試合、21年に67試合に登板し、いずれもリーグ最多の登板数を記録しました。益田投手なくしてマリーンズの2年連続Aクラス入りはなかったと言っても過言ではありません。

特に21年は38セーブで最多セーブ投手のタイトルを獲得したほか、特例ルールとして「9回打ち切り制」が導入されていたため同点時の9回にも登板することが多く、日本記録のシーズン18引分をマークしました。

当時を振り返ると、優勝争いをしていたこともあり9回にリードしている試合は確実にモノにしなければなりませんでした。そして勝利できなくても「引き分けに持ち込むことで何とかして勝率を落とさないようにしよう」といった考えが采配の随所に表れていたように思います。この結果、セーブシチュエーションはもちろんのこと、同点時の9回まで益田投手の担当となり、「勝っていたら益田、同点でも益田」といった条件反射的な起用によって登板過多に繋がったのではないかと思います。

21年はクローザーとして優秀な成績を残した益田投手ですが、昨季はオフの期間が短かったこともあり、疲労を引きずったかのように成績が低下。各種指標の悪化が見られ、特にセーブ失敗の場面が増えた8月からはクローザーを外され、自ら再調整を申し出る形で二軍降格も経験しました。益田投手1人の責任ではありませんが、チームとしても5位に沈む苦しいシーズンとなりました。

益田直也 成績比較 2021年/2022年

21年の益田投手の起用法はレギュラーシーズンを勝ち抜くためだったと言えば聞こえは良いかもしれませんが、昨季の益田投手を見ていると、吉井監督(コーチ)の基本理念とも言える「常に良い状態でマウンドに」とはかけ離れていたのではないかと思ってしまいます。
結果的に優勝も逃した21年シーズン。「あの時、益田以外の投手ももっと使えたら…」といった反省から、吉井監督はあえて今季はクローザーやセットアッパーといった役割を特定の投手に任せないレバレッジ方式を導入することを決断したとも考えられます。

レバレッジ方式で期待したい副次的効果

ここまでレバレッジ方式の定義やメリット、背景について考察を重ねました。首脳陣がレバレッジ方式を上手く使いこなし、また各投手がレバレッジ方式に適応できれば、チームの勝利に大きくつながることが期待されます。

それと同時に、レバレッジ方式を導入することで様々な副次的効果も発生するのではないかと考えられます。ここからは個人的に期待したい「レバレッジ方式がもたらす副次的効果」について書きたいと思います。

①投手の「考え」、「気づき」による成長の期待

吉井監督はコーチ時代から選手自身に考えさせること、選手の主体性の尊重を念頭に置いており、監督になった今でもこの姿勢は変わっていません。これは今季のチームスローガンのテーマにも反映されております。

実際に春季キャンプの練習メニューを見ても、個人練習に充てられる時間が多く、また以前まであったコーチによる指名制の個人練習も撤廃するなど、まさに「主体性改革」を推し進めている最中です。

レバレッジ方式を導入し、監督や投手コーチから明確に「クローザー」や「セットアッパー」などの役割を与えられないことで、投手自身に「もし自分がリードしてる9回に投げるなら」「あのバッターと勝負するなら」「今日の調子で投げるなら」と考えさせることを促す効果が期待できるのではないかと思いました。

首脳陣がトップダウンで各投手の役割を限定せず、起用法に幅を持たせることで、投手にも新たな「気づき」が生まれる可能性があります。この気づきこそ、選手の成長に不可欠なものであり、吉井監督が重要視しているものではないでしょうか。

②ノウハウ蓄積によるデータ戦略部門の強化

現代の野球界では技術革新が進んでいます。かつてはデータといえば打率や防御率など、投手と打者の対決から導き出される成績指標が主でしたが、現在ではこれらに加えてラプソードやトラックマンなどの専門の計測機器で、投手なら球速や回転数、ボールの変化量など、打者なら打球速度や打球角度、打球方向などが詳細に導き出され、選手の特徴を把握することが可能となっております。

マリーンズも2018年オフに当時の山室晋也球団社長が2億円を投入し、データ収集や分析を行う「チーム戦略部」を新設しました。

そして、今季から球団社長に就任した高坂俊介氏も就任会見で「データ戦略部門の強化」をテーマに挙げ、今後の積極的な投資を示唆しています。

リリーフ投手陣の起用を固定しないレバレッジ方式を導入するということは、現場では常に最適解に近い継投策を導き出すために、今まで以上に自チームの投手と相手チームの打者の特徴を把握することが求められます。つまり、レバレッジ方式が上手く運用されるかどうかは、データ収集から利活用までを任されるチーム戦略部が鍵を握っていると言っても過言ではありません。

レバレッジ方式を導入し、現場とのやり取りが活発化される中で、データそのものの蓄積とともにデータ収集・利活用のノウハウも蓄積され、データ戦略部門が強化される。そしてそれが、将来的にチーム全体の強化につながる。理想的すぎるかもしれませんが、このようなシナリオに期待したいです。

③守護神・益田直也の解放と世代交代の促進

昨季こそ不本意なシーズンとなってしまった益田投手ですが、キャリア全体を通じて見れば千葉ロッテマリーンズの「功労者」の1人であることに間違いありません。
一方で、たとえ今季復調したとしても今年の10月には34歳。球団が「常勝軍団化」を目指している2025年シーズンには36歳となることも考慮すると、いよいよ本格的に後釜となる投手を擁立しなければなりません。

とはいえ、功労者である益田投手に対して、真正面から「世代交代を進めたい」「クローザーではなく楽なポジションで投げてくれ」などと言うことは吉井監督の手腕をもってしても容易なことではないはずです。益田投手にも、ここまでの現役生活で築き上げてきたプライドが少なからず存在するでしょう。

どのようにして功労者の後釜を準備するのか?
どのようにすれば功労者のプライドを傷つけることなく上手に世代交代を推し進められるのか?

という点を解決する策として、レバレッジ方式に有効性があるのではないかと思いました。

レギュラーシーズン143試合の中には「絶対に勝たなければいけない試合」がありますが、一方で「多少余裕を持って挑める試合」があることも事実です。
これら全ての試合を益田投手に任せるのではなく、余裕のある一部分から徐々に若手投手に任せ、益田投手の負担を軽減させるとともに若手投手に自信を芽生えさせる。
これを継続し、シーズン中盤から終盤にかけては実績十分の益田投手自信をつけた若手投手の両方をマウンドに送り込めるような状態が出来上がっているのが究極の理想です。

実際にはまだまだ益田投手にも頑張ってもらわないといけない場面は多く訪れるかと思いますが、我こそはと名乗りをあげる若手投手が出てきてくれることに期待したいです。

おわりに

今回取り上げたレバレッジ方式は既にメジャーリーグの一部球団などで導入されているとのことですが、日本ではまだ馴染みがない戦略で、実際に運用する現場のコーチや様々な状況に適応する必要があるリリーフ投手にとっては難しさやぎこちなさを感じる可能性が大いにあると思っています。短期的な視点で見たらマイナスとなる可能性も十分に考えられます。

ですが今回このnoteを書き進める中で、吉井監督は決して短期的な視点だけで判断したわけはなく、球団の掲げる「2025年までに常勝軍団化」といったビジョンに向けて何が必要か、何が現状足りていないかを考えた上でレバレッジ方式の採用に至ったのではないかという考察に至りました。

後半はかなり願望混じりな内容となってしまったかもしれませんが、その点は今後実際に現場での運用をウォッチして深掘りしていけたらと思います。

今季も千葉ロッテマリーンズ、ならびに「吉井理人監督」から目が離せない1年となりそうです。

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