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なぜラグーンが設置されたのにも関わらずマリーンズの投手成績は良化したのか?

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。
2015年に福岡ソフトバンクホークスが本拠地の福岡ヤフオク!ドーム(現:福岡 PayPayドーム)に「ホームランテラス」を設置し、チーム本塁打数を前年の95本から141本と飛躍的に伸ばしました。これを皮切りに、他球団のファンからも贔屓球団の広くて長打の出にくい本拠地球場に「テラス」を設置すべきという意見が増え、ついに昨年、長年の長打力不足に悩まされていた千葉ロッテマリーンズが本拠地のZOZOマリンスタジアムに「ホームランラグーン」を設置しました。

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従来の外野フェンスから最大で4mもせり出したこのラグーンの効果もあり、マリーンズの昨年のチーム本塁打数は一昨年の78本から2倍以上となる158本に増加、リーグ3位の本塁打数を記録しました。

ホークスとマリーンズの本塁打数増加を受け、ファンの間で「テラス設置」の意見がより一層増えてきているのが、セントラルリーグの中日ドラゴンズです。昨年はリーグ1位のチーム打率.263を記録したものの、本塁打数はリーグ最少の90本で、得点数はリーグワースト2位の563点でした。その原因ともなっているのが、広大な本拠地ナゴヤドームです。参考に、昨年のナゴヤドームのパークファクターを見てみると、本塁打パークファクター0.48と一際ホームランが出にくい球場であることが伺えます(パークファクターについては下記ブログをご参照ください)。

一方で、テラス席を設置することでこれまで投手にとってホームランを打たれにくい、言わば「天国」だったナゴヤドームが一気に「地獄」となる可能性も孕んでおり、そのような理由からテラス席設置に反対を唱える中日ファンも一定数いることは間違いありません。

そんな中日を代表するファンのひとりであるロバートさん(Twitter:@robertsan_CD)からこのようなツイートがありました。

ロバートさん


昨シーズン中、マリーンズとZOZOマリンスタジアムのラグーン効果について、打撃に主眼を置いて書かれた記事等は多くあれど、投手に主眼を置いて書かれたものはあまり目にしませんでした。ということで今回は、タイトルにも書いた通り「なぜラグーンが設置されたのにも関わらずマリーンズの投手成績は良化したのか?」というテーマで昨シーズンのマリーンズ投手陣に主眼を置いて振り返っていこうと思います。

投手成績:被本塁打数は増えたものの奪三振数が大幅に増加

まずはラグーン導入前の2018年と導入された昨年の投手成績の比較から参りたいと思います。

ロッテ投手成績1819

懸念されていたとおり被本塁打数は増加したものの、マリーンズの本塁打数が倍増していることを考えれば一定の範囲内に抑えられているのではないかと思います。一方で奪三振数が大幅に増加していることが比較から見受けられます。リーグワーストだった2018年の908個から一気にリーグ2位の1110個にまで増やしています。この奪三振数の大幅な増加もあり、ラグーンが設置されたのにも関わらずチーム失点数、防御率を2018年よりも良化させることに成功しました。

高卒右腕育成の象徴:種市篤暉の台頭

昨年のマリーンズ投手陣を語る上で欠かせないのが、青森県の八戸工大一高から2016年のドラフト6位で入団した種市篤暉の台頭です。プロ3年目となった昨シーズン開幕当初はリリーフ要員として一軍に帯同していましたが、4月下旬に先発ローテーション入りし最終的には26試合で8勝2敗の好成績。116回2/3と規定投球回数に達しなかったものの、投球回数を大きく上回る135奪三振を記録し、千賀滉大、有原航平、山岡泰輔に次いでパ・リーグ4位にランクインしました。

種市の武器は何と言っても落差の大きいフォークボールです。昨シーズン、フォークでの空振り率はあの千賀滉大の23.59%を上回る25.61%を記録しました。海沿いに建てられたマリーンズの本拠地ZOZOマリンスタジアムは、強い日には風速10mを超える強風が特徴で、風の影響を受けて変化球が独特の変化をすると現役選手や元選手が口を揃えて証言しています。そして、近年のマリーンズの投手陣を見てみると、種市の他にも二木康太や岩下大輝、西野勇士などフォークボールを武器にする右投手をドラフトで指名し、育成しています。彼らの共通点として、①高校からプロ入り、②180cm以上の右腕、③縦の変化球(フォークボール)を持っていることが挙げられます。身長があり縦の角度・変化を活かすことができる高校生右腕を比較的ドラフト下位で指名して育成するサイクルが定着した結果、種市のような奪三振マシーンを生み出すことができたといっても過言ではありません。マリーンズの高校生投手指名・育成に関しては、以前書いたnoteも併せて読んでいただけるとより一層理解していただけるかと思います(以前のnoteなので内容が一部古い箇所がございますがご承知ください)。

投手運用管理:吉井理人コーチの就任

昨年のマリーンズを語る上で種市以上に欠かせないのが、吉井理人投手コーチの就任です。ご存知の方も多いかもしれませんが、吉井コーチといえば先発投手の球数過多やリリーフ投手の連投に気を配った「選手ファースト」の投手運用を実践しているコーチで、以前コーチを務めた北海道日本ハムファイターズや福岡ソフトバンクホークスの投手陣を整備し日本一に導きました。

吉井コーチが来る前年の2018年、マリーンズの投手陣は益田直也が70試合、松永昂大が60試合、内竜也が58試合に登板するなど特定のリリーフ投手への負担が大きく、シーズン中盤から終盤にかけて疲労が溜まったところを相手打線に捉えられて勝ち試合を落とす展開が多くありました。登板数がこの3人の信頼度を物語っているのは間違いないかもしれませんが、ビハインドの展開でも接戦時には彼らを登板させる、三連投や回跨ぎでのリリーフも辞さないなど、投手運用に疑問があったことは否めません。この疲労が祟ったのか、内はシーズンオフに右肘を手術し昨シーズンは全休、松永はオフに招集されていた侍ジャパン代表入りを左肩痛で辞退しています。

そして吉井コーチが就任した昨年、マリーンズの投手運用に劇的な変化が発生します。まず、年間通しての三連投の回数が計6回に抑えられ、益田と松永の2人に関しては回跨ぎが一度もありませんでした。最多登板の益田でも60試合に抑えられた他、50試合以上の登板も東條大樹(58試合)と酒居知史(54試合)だけ。一方で、40試合以上の登板が松永、チェン・グァンユウ、田中靖洋、唐川侑己と、多くのリリーフ投手陣に負担を分散させていたことがわかります。これも吉井コーチの投手運用の特徴のひとつで、頼れる投手をフル回転させるのではなく、リリーフ陣全体にバランス良く登板機会を与え、個々の負担を減らそうとしているのです。吉井コーチのファイターズ時代の記事があるので、こちらも参考にしていただけるとありがたいです。

結果として、負担の減った益田は防御率を2018年の3.08から2.15、松永も3.15から2.60へ大幅に良化させることに成功しています。元々高い能力があった彼らを適切な運用法で登板させることによって、常に良い状態でシーズンを通して投げ切れたのが成績の良化に繋がったのではないかと考えられます。また、シーズン当初ビハインドゲームでの登板が多かった東條やドラフト2位で入団し夏場に一軍に昇格した東妻勇輔などが信頼を得て勝ち試合でのリリーフを任されることも多くありました。以前なら益田などの頼れるリリーフ投手が投げていた場面で経験の浅い若手投手たちを登板させ、主要リリーバーの負担軽減と若手投手の育成を並行して行なっていたとも言えます。上述のようにセットアップ的な役割も任されることが増えた右サイドスローの東條は、シーズンオフに投球の幅を広げるシンカーの習得を目指すなど、活躍の場を与えることで選手に更なる成長を促す効果も吉井コーチの運用法にあると考えられます。

吉井コーチの運用についても、以前noteで書いたのでそちらも載せておきます。

直球改革:フェニックスリーグ、ドライブライン派遣など

次に2019年オフの球団の動きについて書いていきたいと思います。このオフ、マリーンズは様々な取り組みを通じて「直球の意識改革」に取り組みました。

・フェニックスリーグでの直球主体の投球
まず、10月に行われたフェニックスリーグで、吉井コーチは投手陣全員に速球中心の投球を求めました。

昨今、NPBでは全体的な平均球速上昇が見られ、昨年のストレート平均球速は144.1キロとなっています。一方でマリーンズにはいわゆる「速球派投手」がここ数年決して多くは在籍していませんでした。しかし昨年、種市を筆頭に若手速球派投手の台頭が顕著になり、一軍で通用するためには速くて強いストレートを主体とする投球が必要であるという考えがチームに浸透し、オフのフェニックスリーグを直球強化の場に活用したと考えられます。昨年1年間、二軍で主に体力強化に励んでいたルーキーの土居豪人がフェニックスリーグで自己最速の153キロを計測するなど、成長が顕著に現れた投手も多いので今後ますます楽しみです。

・秋季キャンプでのツーシーム挑戦
その後行われた千葉県鴨川市での秋季キャンプでは、吉井コーチは投手全員にツーシーム挑戦を指示しました。

速球のスピードが上がれば当然近いスピードで変化するボールも威力を増します。特に日本では手元で動くボールに苦戦する打者が多く、現役時代150キロ近い直球とシュートを武器に活躍した吉井コーチだからこそ、その有用性を今の投手陣にも伝えたいのではないかと感じました。記事内にもあるとおり、合わなければやめてもいいということですが、ツーシームを習得してさらに投球の幅を広げる投手がいるのか注目です。

・ドライブライン派遣
秋季キャンプ終了後には、二木・種市・左腕の小島和哉・中村稔弥・成田翔の5投手がアメリカ・シアトルにあるトレーニング施設「ドライブライン」に派遣されました。

ドライブラインは、投球フォームの動作解析や最適なトレーニングメニューの提案などを通してメジャーリーグで活躍する多くの投手の球速を上げた実績があり、昨今アメリカでもトレンドになっている施設です。ロッテでは西野が前年オフにドライブラインを訪れ、昨シーズンの復活・活躍に繋げました。記事内で二木が球速についてコメントしているように、既にチーム内では速球の意識改革が行われていることが伺えます。直球がより速く、より強くなれば変化球も更に活きるでしょうし、奪三振数の更なる増加のみならず、被安打数の減少なども考えられ、より失点を抑止できる可能性があります。

編成:163キロルーキーを筆頭に、速球派の補強

昨年、シーズン途中に阪神からトレードで石崎剛が加入しました。またオフには、東北楽天ゴールデンイーグルスにFAで移籍した鈴木大地の人的補償として小野郁を獲得しました。いずれも150キロを超えるストレートが武器のリリーバーで、チーム内での期待は高かったものの出番に恵まれていなかった投手です。自慢の速球を武器にマリーンズのブルペンをより一層強くする活躍を期待したいです。

また、ドラフトではマリーンズは最速163キロを投げる佐々木朗希を指名し、4球団競合の末に獲得に成功しました。プロ野球の歴史を変える可能性があるレベルの速球を持つ佐々木が入る球団が、12球団の中で最も速球派の少ない球団とも言えるマリーンズであることも何かの運命かもしれないとついつい感じてしまいます。佐々木には将来、日本人では前人未到の170キロを目指してほしいとの意味合いで背番号「17」が与えられました。他球団のファンの中にはマリーンズの育成能力に疑問を抱いている方も多いかもしれませんが、これまで高校生投手の獲得・育成を続けてきた球団として、期待してみたいです。また、先輩や今後入ってくる後輩問わず、佐々木の加入がチームの直球意識改革をさらに推し進めてくれることを願ってやみません。

そして、フランク・ハーマン、ジェイ・ジャクソンという2人の助っ人パワーリリーバーが加入したことにも触れたいと思います。ハーマンは昨シーズンまで3年間楽天で主にセットアッパーを務め、ジャクソンは2016年から3年間広島東洋カープのブルペンを支えた経験と実績豊富なコンビです。両者とも150キロ台中盤のストレートを主体に、ハーマンは落差の大きいナックルカーブ、ジャクソンはスライダーを決め球に三振を奪う投球スタイルで、NPBでは投球回数を上回る奪三振を記録しています。投手陣全体で速球の意識改革に取り組む中で、彼らのように「必殺の決め球」を習得し、奪三振を量産できる投手が今後増えれば狭くなったマリンスタジアムでもより失点を減らせるのではないかと思います。

また、シーズン中にはドミニカ共和国でトライアウトを実施し、国内でのトライアウトも併せてホセ・アコスタ、ホセ・フローレス、エドワード・サントスという3投手と育成契約を結びました。いずれも速球を武器にする投手で、特にアコスタはドミニカ代表で最速164キロを計測したという、まさに「ロマンの塊」です。元来、中南米の投手は日本人にはないパワーがあり、ここに新規で補強ルートを開拓できれば今後パワーピッチャーを安定的に用意できる可能性があります。彼らの活躍とともに、今後のロッテの外国人獲得方針についても追いかけたいです。

2018年オフに球団収支の黒字化の恩恵を受けて創設された「チーム戦略部」が今後編成面でどのような働きをしていくのかにも注目したい点です。自軍投手のトラックマンやラプソードといった機器での投球データの収集・分析であったり、セイバー指標などが良好な他球団の投手の獲得などにも一役買うような働きを期待したいところです。

まとめ:テラスができたら投手成績が悪化するとは限らない

これまで、本拠地ZOZOマリンスタジアムにホームランラグーンが設置されたマリーンズの昨年から今年にかけての取り組みについて様々な側面から書いてきました。ラグーンが設置されたのにも関わらず失点数、チーム防御率を改善させた大きな要因はやはり種市のような空振りを奪える若手投手が台頭した点と、吉井コーチの投手運用管理によって投手が常に良い状態で投げられた点が大きいように感じます。なので、もし今後中日などの他球団でテラス席が設置されたとしても必ずしも投手成績が悪化するとは限らない、取り組み次第では良化させることも可能であると主張したいです。

一方で、改善されたとはいえチーム防御率はリーグ4位で、まだまだ改善の余地があります。昨シーズン終了後の直球の意識改革や編成面での動きが今後にどのような影響を与えるのか、非常に気になるところです。テラス導入後も毎年リーグ上位の投手成績を残し、優勝争いに絡むホークスのようなチームになれるのか、今後もマリーンズの投手陣から目を離せません。

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