#島ぐらしと魚たち 12月
正月の魚
年末が近づいてくると楽しみなことがある。それは、「正月の魚釣り」だ。
正月の魚とは、漁師家庭からのお歳暮のこと。今年一年の感謝と、また来年もよろしくという気持ちを込めて魚を贈る。
屋久島で過ごした初めての年末、義父の船が巨大なカンパチや色とりどりの魚たちで埋め尽くされていて、その量たるや数十キロ、いや、百キロに近いといったほうが正しいか。とても驚いたことを覚えている。
正月の魚はバラエティ豊かで、オジサン(オトナ)、メジナ(クロ)、オオヒメ(クロマツ)、ヒメダイ(イナゴ)、ウメイロ(キホタ)、アオダイ(アオホタ)、シロダイ(シロホタ)、サザナミダイ(ホドロキ)、メイチダイ(メイチ)、アカタマガシラ(チレ)、スジアラ(アカジョ)、アカハタ(メバル)、オジロバラハタ(イトアカ)etc…と、あらゆる瀬物の魚が勢ぞろいする。
メインターゲットがシマアジの時は、自作のウィリー仕掛けを作って行った。好物のエビに見えるように、ワーム(疑似餌)を仕込んでふっくらボディにし、ガン玉(極小のおもり)を半分に切り目玉にした。シマアジのことを考えながら、しかし定説を無視したウィリーは、そんなもんじゃ釣れないといわれたものの、見事に4匹ものシマアジをはじめ、たくさんの魚が釣れて興奮した。
ハタの大物が釣れた時には漁師さんが二人がかりで捌き、骨はナタで叩き割っていた。我が家に来たのはアラ(ヒレや骨など身以外の部位)だったが、特に厚みのある皮は弾力があり噛むたびに脂のカプセルからうま味が弾け出るような感覚だった。
「正月の魚の日」には家族や知人が協力して作業をする。
島外へ送る魚は日持ちのするものを、あの家はウロコとハラワタを出してやろう、あそこは子どもが多いから骨のないところを、と贈り先のことを考えて選ぶ老漁師の姿は、普段の荒々しさが身をひそめ、溢れた思いやりの心が春の陽のように暖かである。
魚を届けるとどのご家庭も皆、待っていたよ、と出迎えてくれ、魚と交換につきたての餅や今朝収穫してきたばかりのみずみずしい野菜、島では手に入らない珍しい菓子を持たせてくれる。物々交換は屋久島に暮らしている醍醐味の一つであるが、なによりもこうした気持ちのやり取りがたまらなく好きだ。今年ももうすぐ「正月の魚の日」がやってくる。気持ちの交換、大切に繋げていきたい。
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川東繭右(かわひがし まゆう)
東京都目黒区出身
島の魚に魅了され、2011年屋久島に移住
学校司書補として勤務する一方で、魚の面白さや美味しさを普及する活動を行なっている
趣味は魚の耳石集め
好きな魚はクサカリツボダイ ヒトミハタ
お魚マイスターアドバイザー
水産庁魚のかたりべ
鹿児島県指導漁業士
https://www.facebook.com/yakushimaosakana/