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[SF小説]やくも すべては霧につつまれて11

「もうそろそろ予定の時刻か?」

神崎が腕時計を見て会議の始まりを察する。するとまもなく、赤茶色の木目風をした会議室の扉がゆっくりと開き、中から地球防衛軍松島方面所属の参謀の一人が出てきた。

「それではみなさん、入ってきてください」

一同を手招きして再び部屋の中へ戻っていく。

暁たちのような現場で指揮をとる指揮官とは違い、主に太陽系各地に配置された司令部で防衛軍の情報処理などに従事するのが参謀の役割である。
参謀は職務ごとに細かく分かれており、その役割は様々なものがあるが、いずれも現場の指揮官に適切な助言を行い任務遂行を円滑に行う上で極めて重要な役職だ。

参謀の決定一つで組織全体の行動が決まることもあるため、参謀は並外れた経験や判断力、忍耐力を要求される地球防衛軍で最も階級の高い人たちなのである。

そんな参謀の一人が会議に出席するという時点で周囲の緊張感はみるみる上がっていく。誰もがおそるおそる部屋の中へ足を踏み入れる。

「各自自由に着席して待っておいてください」

参謀の一人はそう一言言い残すと、部屋の前方にある大きな画面のほうへ向かっていく。

会議室は基地の最上階にあるだけあって五十人ほど収容できる大きさであった。

もちろん会議室などこれより大きいものはいくらでもあるが、二十人ほどの人数に対しては空席が目立つ。

茶色い長机の上には会議で使うことのできる電子計算機が一つずつ備え付けられており、暁たち三人は仲良く隣同士で席に着く。
電子計算機の電源を入れて会議資料などが見られる状態で準備していると、部屋中に拡声器で音声が響き渡る。

「えー皆さん、聞こえますでしょうか?私、地球防衛軍参謀本部で情報参謀を務めております、宮内です」

拡声器の調整もかねて#宮内傑__みやうちすぐる__#が自己紹介をする。そして彼は参加者の出席を確認し、全員の出席が確認されたところで再び話し始めた。

「今回皆様にお集まりいただいたのは、平素の訓練や任務における作戦会議などとは一線を画するものであるということを念頭に聞いておいてください」

壇上に設置してある画面を見ながら宮内が演説する。何度も作戦会議などに出席したことのある三人も、いつもとはどこか違う雰囲気を感じていた。

「これからこの会議で離される内容に関して、外部の第三者にその内容を漏らすなどの好意が発覚した場合、厳格な措置がなされることを留意してください。また、会議中に外部との連絡を取ることも禁止します。会議室に備え付けられている電子計算機以外の電子機器の電源を切ってください。なお、備え付けられた電子機器に関しては外部からの電子情報攻撃に対する極めて強固な防衛能力を付与しています」

部屋中の空気が凍りついていくようだった。
今まで聞いたことがないほど情報の漏洩に気を遣うような前置き。
普段とは明らかに異なる異様な気配を見せ始めていた。

「それでは注意事項をふまえましたので、本題に入ろうと思います。すでに皆様はこの会議が平素のものとは異なることにうすうす感づいていると思います。なぜ今回このような招集をかけたのか、具体的に説明するために時系列を追って話していきます」

宮内は自身の手元の画面に視線を移す。

「先月、政治家及び参謀と一部の将官を集めて緊急特別会議が執り行われました。その会議は政治部における重要な決定事項に関して、地球防衛軍に対する様々な任務の実行を指示するものです」

堅苦しい言い回しがたびたび入るが、要は地球連邦政府の政治家が地球防衛軍に対して任務を課すということだ。戦争や災害などで任務が課されることはあるものの、大規模な災害が発生したなどとは誰も聞いていない。

そうすると戦争が勃発するのかどうなのか。一同はどのような決定が下されたのか気になりながら耳を傾ける。

「ではその会議で何が議決されたのかといいますと…」

突如口ごもる宮内。口にしづらい内容なのか。

「…それは地球連邦政府と、『ヴァンパイア』の接触、です」

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