谷川岳・天神尾根、快晴の日を引いた件
信濃の国、3番になると急に歌詞が分からなくなって、
4番はメロディーすら分からない。長野出身関東在住、てらしなのです。
むかし登山動画を再生しまくっていた頃、
いろんな登山家さんたちが登っている山があった。
それは群馬県にある谷川岳。
谷川岳の中では比較的初級者向けな天神尾根、
日本三大急登と呼ばれる西黒尾根、
日本三大岩場の一つとして知られ
ロッククライミングの聖地となっている一ノ倉沢など、
様々なレベルの登山者に門戸が開かれた山。
実は、世界一死者が多い山としてギネスブックに登録されていたりする。
谷川岳には"危険地区"というエリアが定められており、そこを通る場合には登山指導センターに10日前までにの登山届2通の提出が必要とされている。
登山動画では、雪山の時期に登っている人が多かった。
特に、融雪期の西黒尾根の動画は、まさしく一歩間違えれば死ぬ世界がそこにはあった。生き抜くために知識と体力を尽くす世界。動画にも関わらず心底恐ろしくなった。
登山への畏れと憧れ。
動画を通してだが、私はそれを育んだ。
そしてそれを教えてくれた登山者の人たちと同じ山に登ってみたくなった。
雪山もロッククライミングもできないので、とりあえず、天神尾根から。
そう思って天気が良さそうな日を待った。
谷川岳は、太平洋側と日本海側の気候の両方に影響を受ける分水嶺となっており、天気が崩れやすい山として知られる。
いくら谷川岳の中では一番簡単なルートだとしても、確実に晴れそうな日に行きたいと思った。
しかし、自分の休日と谷川岳の天気がとにかく合わない。
実は1年近く天気予報とにらめっこしていた笑
そして、ついに今年10月。
気温も天気も風速も眺望も、申し分なさそうな日と私の休日が重なった。
しかも平日だから、ロープウェイの大混雑も幾ばくかマシだと思われた。
大急ぎで高崎に宿泊先を手配し、
夜勤明けの日に高崎行きの普通列車に乗り込んだ。
電車でラーメン屋さんを検索しまくり、見事美味しいお店に出会えた!
近所の人羨ましい。
幸せな気持ちでホテルの温泉に浸かって眠った。
谷川岳までの行き方はいくつかある。
私はJR上越線の土合駅から徒歩で行くか、
他の駅から路線バスに乗ってロープウェイ乗り場まで行くか結構迷った。
なぜなら、土合駅は鉄の間で「日本一のモグラ駅」という異名で知られる
結構有名な駅。
トンネルの中にホームがあり、しかもホームから駅舎まで462段の階段を上がらなければ辿り着けないという、なかなかレアでストイックな構造をしている。
すぐ近くまで行っておいて、
土合駅に行かない手はあるのか??と非常に迷った。
しかし、
等いろいろと考え、結局土合駅はまたの機会にし、
次のようなルートで行くことにした。
路線バスは上毛高原から出ているため、混雑で乗り損ねるリスクが低いと考えて、お金はかかるが新幹線を使った。
お金をケチって現地に着く時間が遅れるよりは良いかなと思った。
ちなみに土日であれば臨時バスが出るらしいので
途中のバス停からでも問題ないかもしれない。
谷川岳に行き慣れた人から見ればガバガバすぎる行程かもしれないが、
とりあえずたどり着けたからヨシ!!!
未だに新幹線には慣れてないので、ホームに着くとソワソワした。
「たにがわ」って名前なんだね!
新幹線内で、上毛高原駅にまもなく着くアナウンスが流れた時、
立ち上がった人の9割が登山の格好をしていたのは笑った。
さながら登山家専用車両。
早歩きで改札を出てバス停へ向かう。座れるかは微妙だが、
バスには乗れそうな順番で並べた。
それにしてもよく晴れていた。
待っているとどんどん人が並んでくる。
コロナ禍の平日でこれとは……
普段の土日なら一体どれだけの人が来るのか。
ある意味今来れてラッキーだったかもしれない。
バスに乗り込む。PASMO使えて良かった。
運転手さんの工夫もあり、なんとか並んでいた人全員がバスに乗り出発。
運転手さん曰く、年に20日くらいしかない快晴の日だとのこと。
天候が崩れやすいことで有名なため、期待はしすぎないようにしようと思いつつ……運転手さんにそんなことを言われたらやっぱりわくわくしてしまう。
バスが奥深くに入ってくると、山と山の間から、手前の山とは色の違う山体がちらっと見えた。
谷川岳かは分からなかったが、恐らく同じ山域の山だろう。
やはり標高が高いと、山の色や表情が変わる。
思わず、とくんと胸が高鳴った。
早く登りたい。
くねくねと温泉地を巡りながら山深く進んで行くと、ロープウェイ乗り場が現れた。運転手さんから「今日は本当に良い日だと思うから楽しんできてください~」と送り出してもらった。
お土産やグルメも気になったが、とりあえずトイレに行き、荷物をまとめ、ロープウェイに乗り込んだ。
贅沢な空中散歩。わくわくが止まらない。
上へ着くと青い空が出迎えてくれた。
奥にある二つのとんがったピークが谷川岳。
憧れてはいたけど生で見るのは初めて。
まるで有名人に会った時のように「えっ!本物?!」ってリアクションしてしまった笑
道中、「まさかあそこまで行くの?」「いや違うでしょww」と会話してる方がいたけど残念!あれです!!一緒に頑張ってあそこまで行きましょう!!!✌✌✌
登山動画で見た鐘があった。
安全登山の鐘とのことで、とりあえず鳴らした。
静かな空間に響き渡る音。
そして、登山道入口へ。
快晴の天神尾根だから多分大丈夫だとは思うけれど、
山では何が起きるか分からない。
これまでに観てきた谷川岳の動画の数々が脳裏に蘇る。
「無事に登頂して帰ってこれますように」
「今日谷川岳に来た全員が山を楽しめますように」
そんな願いを込めて、山頂に向かって手を合わせた。
登り始めてすぐは樹林帯の中を進む。日陰で一部ぬかるんでおり、木道の段差が大きいところもあったりして、ちょっと苦手だなぁと思った出だし。
しかし、木と木の間から見える谷川岳や、下に広がる景色が美しく、「こんなに良い日に来られたのなら、もっと先に行きたい」という気持ちに背中が押された。
熊穴沢避難小屋に到着(写真忘れました)。少しだけ休憩。最近お気に入りの行動食、アポロチョコとグリーンダカラで栄養補給。10分ほど休んで行動再開。
動画で観た限りでは、この避難小屋を過ぎると岩場が増え、鎖場も出てくる。あまり岩場の経験がなかった私は「三点支持三点支持三点支持…」とブツブツ言いながら、岩場までの道を歩いた笑
実際に岩場を目のあたりにした時「思ったより角度エグいな!!!」と心の中で叫んだ笑
もちろん、登山に慣れた人は「あんなの全然エグくないよ笑」と思うかもしれないけれど、岩場にあまり慣れてない私にとっては結構怖気づくものだった。
登山動画だと、結構カメラの性能や機能によって角度の見え方も違ったりするので、実際に目の前にした時に、「あれ…?動画と印象違うな」と思うことはたまにある。今回もそんな感じだった。
実際に鎖場を通ってみると、「意外といけるな」と思った。道を見つけていくのが楽しい。幼少期の頃、野山を駆けまわったりジャングルジムを登っている時の感覚を思い出してちょっとわくわくした。大人になってもこういうことできるんだね。
ただ、目の前のことに夢中になり過ぎると、いつの間にか行き止まりみたいなところにいたりするので、先を見通しながら手足の置き場を決めなければならないなとは思った。
私が天神尾根の登りでキツイなと感じたのは、岩場そのものの難易度より、その岩場の長さだった。動画を観ていて、私の印象では岩場や鎖場は3~4カ所くらいかなという印象だった。
だが、それは私がよく観ていなかったり、編集で省略されていただけで、実際に行ってきた印象では、熊穴沢避難小屋以降のルートの大半は岩場ではないかと感じた笑
やっと一カ所岩場を登り終えて「はぁ~」と上を見上げたら、遥か上を両腕両足使って登っている登山者がたくさん見えた。「あんなとこまで岩場続いてんの?!!!!」と衝撃を受けたのを覚えている。
他の登山者の登り方を見て参考にしつつ、時々三点支持を忘れてしまう自分に「くそー」と思いつつ登っていく。「もっと険しいルートに慣れて、もっと行ける山を増やして、どんどん思いがけない景色や憧れていた場所に行きたいな」なんてことを思いながら。
死ぬほど綺麗な木々の模様、ビリビリと迫力のある稜線、ほとんど雲のない青空。こんなに恵まれた環境がこの山にあるのだと、動画だけでは決して体験できない幸福を感じながら、時折深呼吸して登っていく。
平日でいくらかマシとは言っても、大人気の山。自分の前後にはいつでも人がいて、盗み聞きは申し訳ないと思いつつ、別のグループの会話は聞こえてきてしまう。
奥穂に登ってきた50代くらいの女性たちのグループ、登山店で働いていて終始明るいトーンで話す小麦色の肌が印象だった女性。
「いいな、私も行きたいな」「ああいう人になれたらな」そういう憧れを、登山中いろんな人に抱く。
行きたい山があって、なりたい人がいる。登山を通して、私は自分が日々を積み重ねていく意味を見つけている気がする。
天狗の留まり場という岩まで着くと、だいぶ岩場も落ち着いてくる。
せっかくだから、私もその岩に登ってみた。怖くて立てなかったけど笑
綺麗すぎるよ。本当に今日は。
山という場所にあるから岩も特別に感じるけど、思い起こせば、祖母の家にあった岩に小さい頃よくよじ登っていたし、私は多分岩登りは嫌いではないのだと思う。
嫌いじゃなくて良かった……と少し安堵する自分がいる。自分の登山の可能性にまだ限界を感じたくないから。
山頂が近づくにつれ、階段も増えてくる。スクワットをやった甲斐があったか、息はそこそこ上がるもののそこまでしんどくはない。下界よりも一足早い紅葉にテンションを上げつつ、写真を撮りながら登った。
やっと長い階段を登り終えると、肩ノ小屋がある。
行きでは寄らなかったが、帰りに中に入って谷川岳のバッジを買った。
翌日が仕事だったため出来なかったが、こんな晴れた日にここの小屋に泊まることができたら最高だっただろうなと思う。
そして数分歩くと、一つ目の山頂・トマの耳に到着!
人がたくさんいるから順番待ち。
正直、谷川岳は岩場等の登山道の内容にばかり注目していて、標高や景色にはそこまで関心をもっていなかった。しかし、谷川連峰の中にそびえる1900mを超える山。山々の連なりのスケール、帯びる色味が圧倒的だった。
もうこんな日には来れないかも…なんてネガティブになってしまって、でもだからこそ、焼付けたいと思った。
体力が持たなさそうであればここでゴールにしようと計画段階では考えていたが、だいぶコースタイムを巻くこともできていたので先へ進むことにした。
次の山頂へ行くにはトマの耳からの急な下りを通らなければならない。速そうな方を先へ通してからゆっくり確実に下った。ここまで来ればどこもかしこも撮影スポットなので、山頂と山頂の間は短い距離なのに何度も立ち止まりながら進んだ。
再び登って二つ目の山頂・オキの耳へ到着。
登山動画を観ながらいつか登りたいなと思っていた頃の自分へ、「ついに谷川岳登ったぞーーーーーー!!!」と心の中で叫んだ。
ちょうどスペースを見つけたのでおにぎりを食べた。他の登山者の笑い声や「来て良かったねー」という言葉を聞きながら、自分も嬉しくなっていた。
同じ日、同じ時間帯に登った人達って、たとえ言葉を交わさなくても、ちょっと仲間意識が芽生えてしまう。
いや綺麗すぎるだろ。
紅葉の赤、山の緑と影、空の青…
色の辞書があるのなら調べまくって書き並べたいけど、きっと表現はしきれないんだろうな…と思うほど色とりどり。グラデーションとコントラストがすごい。語彙力なんかもはやいらない笑
オキの耳から降りている途中、ふと目に入ったトマの耳山頂の人の多さに思わず笑ってしまった。
向こうから見たらこっちも人多いんだろうな笑
本当に全方向綺麗なので、思わずパノラマを撮ってしまう。
今思ったけど普通に動画撮れば良かったな笑
下山では、眼下に広がる広大な空間に飛び込んでいくようなわくわく感があった。登山をしていて好きな時間の一つ。
しかし、下山においても岩場は牙を剥いてくる。登りで鎖を使わなくても通れた箇所も、下りとなれば話は別。慣れた方は足の力だけで下っていったが、私が真似したら多分大怪我するので、人に道を譲りながらゆっくり下った。
ここでも他の方の下り方を見て勉強する。ひょいひょい下ってしまうベテランの方や、ほっそい足場を筋力だけで踏ん張っている方、滑って転んでしまう方、楽しそうにワイワイ下っていくグループ、本当に色んな方々がいた。
もっと経験積んで、もっと筋力つけて、楽しい仲間も出来れば見つけて登山できたらなーと、またやってみたいことが見つかる。
人が多すぎるのも大変だけど、この日の登山は他の人達の歩き方や楽しみ方を見れたからこそ乗り越えられた気がする。
落ちないように、滑らないように、体力だけでなく集中力など色々なものを研ぎ澄ませて下ったから、登山口まで戻ってくる頃には本当にヘロヘロだった。写真も全然撮る余裕がなかった。
いつもの登山なら、終わったらストレッチをすぐやるけれど、この日は「着いたぞ!」とガッツポーズをした後はしばらくベンチに座ってぼーっとしていた。
達成感と、もう何かを考える気力も残っていないからこその無。
「登って、帰ってこれた……」
登山直後の感想は、とってもシンプル笑
そしてそれが好き笑
思っていたより早い時間のバスに乗れたので、寄り道も考えたけれど、本当に気力体力ともに使ってしまったため、結局まっすぐ上毛高原駅へ向かった。
土合駅!上越線!!
またな!!!
ゆったり観光する時間があったり、友人と来るような機会があれば、今度は温泉地にいってみたい。
越後湯沢!!水上温泉!!!
(このへん魅力的なとこばっかじゃん!!!!)
帰りは各停に乗る気力も残っておらず、上越新幹線で東京まで乗った。
残った体力で新幹線のホームや車両をパシャパシャ撮り(撮るんかい)、
車内では爆睡していた。
私は昨年膝を痛めてから、リハビリで足やお尻の筋肉は鍛えていたが、今回の岩場では腕や肩の力もよく使った。文字通りの全身運動をし、身体中の力を使った気分。
それに加えて、ただでさえ苦手な下山で、今までにない急な角度で鎖も使いながら下り、かなり集中力を試された。まだまだ足りない力がいっぱいあるなと気づかせてくれた今回の旅。
これからも、登山を通して己や人や地球と向き合う日々は続きます…。
○おまけ○
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?