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備中神楽の季節

神楽を毎年見ていた頃、最後まで起きていられたことがない。

日がとっぷりと暮れてから始まる神楽踊りは、神社にしつらえられた舞台で、本家のいとこらが見知る、地域の人が演じる。

ヤマタノオロチとスサノオノミコトとの闘い。話はわかりやすく、踊りは迫力があり、十分にひきつけられる。

でも、年端のいかない私は、昼間のお祭りムードで、もう疲れている。いつも、親戚のだれかれの膝の上で、眠りに落ちた。


父の実家で、その日は、親戚が集まり、祭りのご馳走が並んだ。一番年下の私は、いとこたちに会えるのも、親戚の大人たちに、かまわれるのも、楽しみだった。

必ず、バラ寿司があった。酢漬けのママカリやタコに、アナゴやエビに貝。海山の幸をふんだんに使う岡山名物だ。宴会の男衆は、出てくる料理に喉鼓を鳴らし、酒を酌み交わす。


幼すぎて気づかなかった。宴の席に加われている女は、私だけだったことを。



気づいた頃から、神楽を見たことがない。



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