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“人生の最後に聞きたい曲”

「一番好きな曲って何?」
っていう
‘’死ぬほど困る質問’’を日常生活で
ごくごく稀に聞かれることがある。

そんな回答はされるだけ困るのでうまく答えられなかった。
King Gnuやあいみょんの名前を出しておどけるパターンくらいしか思いつかないし、それを実行してきた。

十中八九スベるんだけど、そんなわけわからん質問してくる奴は音楽聞き込んでるわけがないからそれでいい。すぐ次の会話にシフトチェンジしたほうがいい。ラーメンの話とかしとけばOK。

閑話休題。

ここまでは別にどうってことない話で。
これからが本題。

好きな曲なんてミーハーの俺でも100曲くらいあるし、言えるけど、
死ぬ前に聴きたい曲、聴くと涙が出てくる曲っていうと大体絞れてくる。

やっぱり先述の質問もある程度シチュエーションを加味した上でしてほしい。漠然とした一番好きとかは困る。話がうまいやつは質問も上手い。

閑話休題。

くるりの『奇跡』。

これだろう。

このライブverがグンバツに良い。


初めて聞いた時、
何度も聞く時、
久しぶりに聞いた時、

そんな聞く側のシチュエーションの変化に対しても一切変わることのない品質で岸田さんの声が聞こえてくる。

奇跡というタイトルだが、勿論歌詞には一度も奇跡という単語が出てこない。
スピッツのチェリーやロビンソン、
GLAYのhowever、winter,againよろしく頭一つ抜き出た名曲のあるあるにも当てはまる。

もう少し深く。

木村カエラ
人生の最後に聴きたい曲

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わかる。
本当にセンスに満ち満ちている。木村カエラという人間性をこの一文で丸ごと表してしまっている。心から素晴らしい。


ここで歌詞を。
せっかくなのでベタ打ちで。

くるり/奇跡

いつまでもそのままで
泣いたり笑ったりできるように        曇りがちなその空を
一面晴れ間にできるように          
神様 ほんの少しだけ
絵に描いたような幸せを           分けてもらうその日まで
どうか涙をためておいて
言葉は転がり続け
思いの丈を通り越し             うまく伝わるどころか
掛け違いのボタン 困ったな
あぁいつもの君は
振り向いて笑う               ため息交じりの僕を許してね
退屈な毎日も
当然のようにすぎてゆく
気づかない隙間に咲いた花          来年もまた会いましょう
さぁここにおいでよ
何もないけれど               何処へでもゆけるよ
すこし身悶えるくらい

総評。
書いてみてわかるこの歌詞の短さ。
そして曲はoutro含め6:29。

この贅沢なイントロとアウトロこそが音楽の歓びを最大限に高めている。
ふんわりとした暖かなアコースティックギターから始まるイントロで心が蕩ける。
そこに邪悪な気持ちや、悲しい気持ちはなく幸せがとめどなく溢れてくる。

【個人的な解釈】


歌詞も綿密な引き算がなされており、
究極に研ぎ澄まされている。こんなにも短い歌詞。

国語の教科書に載ってても何ら気にならない。 日本語の気持ちよさ、歓びがそこにある。

人生における奇跡、日常における奇跡を描いた曲。


タイトルの奇跡って、本当にこれ以上のタイトルは日本語の語彙で存在しない。        というより現代社会は奇跡の意味を履き違えている。奇跡の安売り。奇跡はそんな簡単に発動しない。


繰り返しの毎日の中に、
細やかな彩りを感じた瞬間を切り取って奇跡という表現を適用している。

どんな人生の見え方で、どんな人生の過ごし方でここまでの視点を以て音楽に落とし込めるのだろうか。
人生1回目の見え方じゃない。

そして良い意味で間違いなく陰キャ。
人のことばかり気にしてしまう外交的な感性ではここまでの表現は磨かれない。恐ろしいほどに共感できる自分も御多分に洩れず陰キャラクターである。


歌詞の引用と雑感


①いつまでもそのままで
泣いたり笑ったりできるように        ②曇りがちなその空を
一面晴れ間にできるように

①でわかるのは
「心の変化」の美しさである。
②でわかるのは
心の動きを「風景」として喩えていること。

泣いたり(曇り)、笑ったり(晴れ間)


③神様 ほんの少しだけ
絵に描いたような幸せを
④分けてもらうその日まで
どうか涙をためておいて

神様にお願いするのは絵に描いたような幸せであり、それを分けてもらうという謙虚な姿勢、そしてその対価としての涙。

ここで言う幸せは、
何かに当選したり、劇的瞬間的要素ではなく、長く永く続く幸せの部分を暗に感じてとても良い。文節の奥ゆかしさは日本的であって、他の言語での翻訳が難しいと予想されることから、忘れられた日本人の心を擽る好きなフレーズでもある。

⑤言葉は転がり続け
思いの丈を通り越し             うまく伝わるどころか
掛け違いのボタン 困ったな

⑤は心の底から共感できる。言葉って喋れば喋るほど伝わらなくて、自分の思いとは反して伝わったり、伝わらなかったりする。
「掛け違いのボタン」というこの短い比喩に全部詰まってる。
岸田さんは言葉の大切さを本当に理解している。クリティカルな比喩。

⑥あぁいつもの君は
振り向いて笑う               ため息交じりの僕を許してね

フックの部分。
ここの心理的描写がすごく美しい。
君の「笑い」
僕の「ため息交じりの(笑い)」

君と僕との対比、振り向いて笑う、ため息という動きの表現が加わり、情緒的に情景が映し出される。

⑦退屈な毎日も
当然のようにすぎてゆく           気づかないような隙間に咲いた花       来年もまた会いましょう

どんなに辛く退屈な日々でも、すぎていく。
隙間に咲いた花=幸せという解釈をすると、そんな退屈な日々の中にも幸せってあるんだよっていうポジティブな描写。

⑧ さぁここにおいでよ
何もないけれど               何処へでもゆけるよ
すこし身悶えるくらい

ラスト。
何もないからこそ、どこへでも行ける。
それはすこし身悶える(すこし苦しい)かもしれないけど、大したことじゃない。

日常のふとした変化を見落とさない様に、日々を過ごしていけるそんなポジティブな文章で締めくくっている。


総評。
こんなに素晴らしい曲が生まれているリアルタイムで聴けることが何よりの幸せである。

人生において仕事や生活上、スピードを上げないといけないこともある。
でもそんなとき、この曲がそばに在れば一歩立ち止まって周りを見渡せる。

走っていて見えなくなっていた景色や、

気づかないような隙間に咲いた花”

を見つけられるかなきっと。


たまにはゆっくり歩いてみよう。

2022/06/02


参考にしたサイト


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