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「一緒に◯◯する」という育て方
現場の方や、同業の人材育成担当者の方と話していると、「どうやって育てたら/教えたらいいですかね」という質問をされることが多いです。主に現場でのOJTの場面を想定しての話。こういう質問を聞いていると、育てる/教えるという行為を、「うまい言い方でもって相手が仕事をできるようにする」というニュアンスで捉えている人が多いのかなと感じます。
もちろん「言い方」の大切さはあります。と同時に、私は「言い方」ではない育て方/教え方があるとも思っていて、さらに言うと、相手が駆け出しであればあるほど、「言い方」ではない育て方/教え方が効果的だと思っています。
その端的な例が、IT系の仕事でのOJTを想像させるこちらのツイート。
「エラー読んだ?」「読んでないです…」となったら、うちのチームだと「一緒に読もう」てなるかな。チームにJoinした頃、テストのやり方がわからなくプログラマーに聞いたら一緒にやってくれて嬉しかったんだよね。自分も誰かに何かを聞かれたら「一緒に解決する」が基本(普通)のふるまいになってます
— miwa (@miwa719) September 2, 2022
これは、教え方の科学であるインストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)において、〈Tell meではなくShow me〉と説明されることの多い、〈例示〉という原理原則にあたるものです。
M・デイビット・メリルによると、構成主義心理学に基づいて近年提唱されている数多くのIDモデル・理論に共通する要素は、次の5つです(だから、『第一原理』と名づけて2002年に提唱しました)
(中略)
3つ目は「例示」で、能書きを語る(Tell me)のではなく、具体例を見せる(Show me)というアプローチが推奨されています。
〈Tell meではなくShow me〉からは、育て方/教え方というのは「言い方」の問題ではない、というメッセージを受け取ることができます。冒頭の「どうやって育てたら/教えたらいいですかね」という問いに直接的に答えるのならば、「育てよう/教えようと大上段に構える必要はなくて、あなたの仕事のやり方をそのまま見せてあげてください」となります。
「仕事のやり方をそのまま見せるということは、『背中を見せる』ということ?」と思う方もいるかもしれません。「いまの若者にはあわないんじゃない?」とも。
はい、背中を見せる、というのともちょっと違います。さきほどの「仕事のやり方を見せる」というのをもう少し正確に言うと、「いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋りながら、仕事のやり方を見せる」となります。Showするのは、外から見える「仕事のやり方」に加えて、「あなたの頭の中」であるわけです。
ちなみに、《何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》る「だけ」になってしまうと、《能書きを語る(Tell me)》に陥ってしまいます。《仕事のやり方を見せる》すなわち《具体例を見せる(Show me)》がセットになっているからこそ、育て方/教え方として効果的なのです。
実はこの《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》るという行為は、相手を育てる/教えるという場面だけではなく、それを喋っている本人(あなた)が仕事をする上でも、ある効果を生みます。
ラバーダッキング法とは、問題が発生した際に、ラバーダック(ゴム製のアヒルのおもちゃ)に悩みを話しかけることで、頭の中を整理し、問題の解決を図る方法です。
エンジニアであれば、プログラムのバクなどによるエラー(不具合)に遭遇したとき、一人で考え込んでいても一向に解決しなかった問題が、アドバイスを求めるために誰かに話すことで、案外その場で自己解決してしまった経験がある方は少なくないでしょう。基本的にエンジニア自身でコーディングしたソースのミスを自分自身で探すことは気が付きにくく、第三者に相談したほうが問題解決しやすいというのが一般的ではないでしょうか。
そして、これがまさにラバーダッキング法の効果です。
ここで紹介されているラバーダッキング法というのは、まさに、《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》るということですよね。そしてそれが、喋っている本人(あなた)の問題解決に役立つというわけです。
《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》る行為を、「やったときの効果」という側面から紹介しましたが、もう一つ別の角度から見ると、「やれないことのまずさ」という意味合いあります。
労働時間が長いマネジャーは、 営業の勝ち筋がわかっていない。
できるマネジャーは、営業で何か問題が生じたときに最短ルートで解決する方法をメンバーに指示できる。
マネジャーについては、できる人ほど短い労働時間で高い成績を上げる。
逆にできないマネジャーは、試行錯誤を繰り返しているうちになんとなく数値はとれても、それが理論化できないものだから、ほかの機会でまた試行錯誤することになる。
結果として、マネジャー自身もメンバーも労働時間が長くなってしまう。
いかがでしょう、育てる/教える側(あなた)にとって、だんだん耳の痛い話になってきたのではないでしょうか。そう、《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》れないということは、自分の仕事が《試行錯誤を繰り返しているうちになんとなく数値はとれても、それが理論化できないものだから、ほかの機会でまた試行錯誤する》段階にとどまっているということなのです。(ちなみに引用部分では《理論化》という言葉を使っていますが、これはなにも科学的理論みたいな壮大なものを指しているわけではありませんので、「持論」くらいに読み替えてみると正しいニュアンスが伝わると思います)
あなたは、自分の仕事を《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋》るという行為を通して、〈持論化〉できていますか?
タイトルの「『一緒に◯◯する』という育て方」に戻りましょう。
冒頭のツイートでは、《一緒にやってくれて嬉しかった》という感情面の効果が語られています。これはもちろん大きいでしょう。そして今回紹介したのは、認知面からの《「言い方」ではない育て方/教え方》でした。
《いま何をやっているのか、なぜそれをやっているのかを喋りながら、仕事のやり方を見せる》という育て方/教え方というのは、育てられる側にとってはもちろん、育てる側(あなた)にとってもいろんな効果があります。
できない人がいたときには、「なんでできないの?」「どうやるといいかを自分で考えてみて」と言う前に、さらに、「どういう言い方だとできるようになるのか」と悩む前に、《一緒に解決する》というスタンスで向き合ってみてほしいなと思います。それは、すべての人を助けることにつながります。
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