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『これからの持続可能な集住圏づくり』シンポジウムの概要|メモ

2021年6月19日、紫波町にて開催されたシンポジウム『これからの持続可能な集住圏づくり - クルムバッハ村に学ぶ、環境住宅・林業・山遊び -』に参加した。

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中部ヨーロッパ(南ドイツ・スイス・オーストリア・北イタリア)の小さな村においてすでに実践されている「森を中心とした豊かな暮らし」を視察したメンバーが中心となって話を進めながら、紫波ならではの地域資源を見直し、地域内での経済循環ができる暮らしの未来を考えるシンポジウム。質疑応答の時間がなくなるほどの濃密な内容と建設的な意見交換がなされたのが印象的だった。

森林や田畑からはじまる豊かな暮らしの可能性。紫波町やその周辺地域だけでなく、きっと全国でも参考になる地域があるのでは?詳しくは公開されたアーカイブ動画を参照頂くとして、ここでは概要をまとめておきたい。

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シンポジウム『これからの持続可能な集住圏づくり - クルムバッハ村に学ぶ、環境住宅・林業・山遊び -』
開催概要 https://www.facebook.com/events/178559167507979/
公開動画 https://youtu.be/ghvLynSPqZ4

中部ヨーロッパの小さな村の森を中心とした豊かな暮らし

はじめに竹内昌義氏から、2050年脱炭素社会の実現に向けた世界・日本の現状、エネルギー消費を抑えるために建物の断熱が有効であること、また森を中心として小さく経済を回す循環が大事であることが示された。

続けて、中部ヨーロッパで実現していた健康的で豊かな暮らしが紹介された。

ドイツのクルムバッハ村では、人口1000人の街の中心部に市役所を置き、そのすぐそばにバス交通のハブやスーパーマーケットを作るとともに、その周りに高齢者やニューファミリーの暮らす高性能なアパートを建設して、集まって住んでもらう。空いた周辺の地域には、元気な30〜40代がリノベーションして空き家を活用して住んでいるという。

ドイツのフライブルク市では、整備した林道に、市民が散策したり、トレイルランやマウンテンバイクのフィールドとしても活用されるなど、多様な市民が森とともに健康的に暮らしているという。

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エコ住宅の快適さに惹かれ自ら住みたくなったことを原動力として、エコ賃貸住宅事業を手掛けるようになったくらしすた不動産・星麻希氏も、この中部ヨーロッパの視察に同行していた。星氏は視察から戻り、森を中心とした暮らしを実現するための要素は、自分たちの身近なところに全部そろっているのではないかと感じたという。

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紫波町における森から始まる豊かな暮らしの可能性

紫波町は、全国でも先進的な公民連携プロジェクト「オガールプロジェクト」が実施された町。町の中心部は、10年前と比べて人口回復、持続可能な年齢構成になりつつある。しかしこれは中央部の話であり、町の東部・西部は少子高齢化が進む中山間地域。昨年度と今年度で、7つの小学校が閉校となる。

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清水義次氏は、森から始まる豊かな暮らしの可能性についてのポイントを示した。まず、近所の森を活かすこと。「森は近所の油田(by竹内昌義氏)」という概念は大事であること。そして、車で30〜40分の範囲内に多様な企業・働き口があること。また、すでに紫波町でもエコ賃貸住宅が新たなライフスタイルとして芽生えつつあるように、熱環境の良い住宅による健康的なくらしを実現すること。また、中部ヨーロッパで印象的だったこととして、住民の自治意識、町の経営に直接参加する意識が強かったことにも触れられた。

さらに、持続可能な暮らしの中心軸に「命の価値」が置かれるようになってきたのでは、と話が進んでいく。新しいウイルス等と共生する暮らしには、いかにいい物を食べ自己免疫力を高めることが大事であり、そのために重要なのは農業である。従来の農業は化学肥料などを用いて一定品質・大量生産を目指したが、次の時代の農業に変えていく必要があるのではないか。こうした命を支える産業として考えたとき、紫波町は林業だけでなく、農業にも可能性を感じる。端的には、オーガニックな農業、土づくりに焦点を当てた農業が大事になる。

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そして、ファシリテーターの内山章氏のコメントにハッとする。自分たちの命や暮らしを守るのに、エネルギー資源を海外に頼ることが当たり前になっている状況は、非常に危ういことだ。森を中心として小さく地域経済を回すことは、経済的な意味合いでの持続性という面もありつつ、自分たちの命を守る環境を維持することに接続して行く。

シンポジウム参加者からの紫波への期待と可能性

シンポジウムの第2部では、休憩時間中に寄せられたシンポジウム参加者からの付箋をもとに、ディスカッションが行われた。付箋は、紫波の良いところやこんな紫波町になったらいいなと思うことを記入したもので、「食」「森」「エネルギー」「地域暮らし」「エコ住宅」「教育」などのテーマに分類。一つ一つ取り上げ、参加者から直接声を聞き意見交換するなど、とても建設的なものとなった。また、町外・県外からの参加者も多く、紫波町における新しいライフスタイルへの関心の高さを感じた。

シンポジウムにありがちな雰囲気はなく、ぜひ動画の後半も見て頂きたい。

また、シンポジウムの終盤には、主催のエネルギーまちづくり社とL・P・D architect officeからイメージスケッチが示され、紫波において実際にどのような暮らしが実現したら良いか、この日のシンポジウムの意見や思いも取り入れながら今後も考えていきたいと話があった。閉校予定の赤沢小学校を舞台にした、とても魅力的なスケッチだ。

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このスケッチを手掛けたL・P・D architect officeのブログにも、シンポジウムの詳細が記されている。あわせて目を通して頂きたい。

(なお本文中のYouTube動画のキャプチャー画像は、L・P・D architect officeに快く許可を頂いたものです)

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