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箱男

映画予告とその期待感

映画「箱男」の予告編からは、箱に籠った男が世間を観察し、徐々に展開されるミステリー的な雰囲気が感じられました。奇妙でありながらも、引き込まれる異質な世界観が期待されます。

27年越しの映画化

この作品は1997年にドイツを舞台に制作が開始される予定でしたが、直前で頓挫。それから27年後、石井監督自らが念願の完成に至りました。27年前と同じキャスト、永瀬正敏さんと佐藤浩市さんが再び出演しています。

特に印象的だったのは永瀬正敏さんの老成感です。冒頭のナレーションで「わたし」を名乗る声の主が永瀬さんだと気づいたものの、その声は予想以上に年老いており、驚かされました。ヨボヨボとした声に最初は不安を感じつつも、その違和感が次第に映画の奇妙さとマッチしていきます。

娯楽性と狂気が共存する演出

原作である安部公房氏は「娯楽作品にしてほしい」という意向を残していたそうですが、映画版「箱男」はその期待に応える形で、独自のクレイジーさを打ち出しています。突如として走り出す箱男や、箱の中から不意に伸びる手、箱同士がぶつかり合い転げ回るシーンは、観客を不思議な笑いへと誘います。

特に佐藤浩市さんの狂気に満ちた演技が印象的です。ナイフを舐めるような過激な演出こそありませんが、ユーフォルビア(サボテン)を突然むしり取って食べるシーンには思わず「アロエじゃないんだから!」とツッコミたくなります。その一連の流れが、異常でありながらもエンタメ性を失わない絶妙なバランスを保っています。

メタフィクションとしてのネタバラシ

クライマックスでは、映画の視聴者自身が「箱男」を覗き込んでいるような視点に切り替わります。「ああ、こういう形でメタ的に演出するんだ」と感心する一方で、このどんでん返しが、作品全体の不気味さをさらに引き立てています。

映画の異様な世界観やキャストの存在感が際立つ、非常にユニークな作品だと感じました。

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