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巡り巡ってひらかれた両国の素晴らしい世界

垣根のない世界を造りたいと彼はよく言っていた。
四方に広がるセンターステージ。
そこにはそんな世界が待っていた。

普段は国技である相撲が行われるはずのそこには不思議な空間があった。
真っ赤な衣装に包まれたバンドメンバーたちに迎えられ闘牛士のような出で立ちで姿を現した彼はワタシたち観客をさあおいでとでも言うように煽り振りかざした旗をマイクスタンドに替えた。

あっという間に彼の世界に引き込まれ息をのむ。
心地のいい歌声に包まれながら目を閉じる。
するとギターの音が聴こえ始めピアノやフィドルが合わさりチェロが旋律を奏でたかと思うと私たちの手拍子が重なりときおりバンジョーやマンドリンが加わった。
それはやがて祭りのような賑やかさであふれたかと思うと一抹の寂しさを残してまるで夢だったかのように去って行ってしまった。

昨年千秋楽を迎えたツアーの番外編と名付けられたその公演はひと味違っていた。
今までのステージで設けられていた幕や袖バックステージがなかったのだ。
オープンに開かれたその空間を四方八方所狭しと動き回る彼はとても生き生きと音楽とともに溶け込んでいた。

正直言ってどんなステージに仕上がるのか少し不安だった。
バンドメンバーはどうするのか座席の配置はどんな感じなのか音響はどういう風に響くのか想像できないまま臨んだライブだった。

この公演が決まった時アリーナにするのか升席にするのかどちらがいいかとても悩んだ。
結局升席にしたのだけどこれがまた何とも言えない心地よさを増長したような気がしている。
ステージには少し遠かったことやスタンディングできなかったことだけが心残りではあるけどそれを抜きにしても今までで最高といっても過言ではないほどとても楽しめたライブだったことは間違いない。

武道館のような果てしない距離感もなければライブハウスのようなひしめく窮屈感もない。
そこには当たり前のように彼がたどり着いた両国国技館の素晴らしい世界が当たり前のようにひろがってわたしたちと繋がったのだ。

彼はきっとこれからもこんな風にして唄い続けるのだろう。
素晴らしい世界はどこまでもどんな風にでも広げていけるのだし
わたしたちはわたしたちの素晴らしい世界をもってそれに繋げていけたらこんなシアワセなことはないのだ!


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