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【Genuine freedom(ジェニュイン フリーダム)】

『華やかで優雅なシルクのように輝く女性』

こちらは、短編小説となっております。
無料ですので、息抜きにどうぞ𓂃🌿𓈒𓏸

ロサンゼルスの夜が、まだ街の隅々に光を散らしている頃、エミリーは舞台裏で深呼吸をしていた。
鏡の前に立ち、ゆっくりと自分を見つめる。
化粧を施した顔に映るのは、これから自分が演じる別人
目の下のアイラインは濃く、唇は真っ赤に塗られていた。
全身を包むのは、鮮やかな赤のシルクのドレス。
彼女が手に取るべきは、単なる衣服ではなく、役目を果たす「鎧」だった。


「エミリー、舞台は整ったわ。」
声をかけてきたのは、ステージマネージャーのリズだった。彼女は年季の入ったバーレスクの舞台で何年も働いてきたベテランで、エミリーにとっては大きな支えでもあり、厳しい指導者でもあった。

「ありがとう、リズ。」
エミリーはそう答えて、肩の力を抜いた。

彼女がこのクラブ「Radiance(レイディアンス)」に来たのは、数ヶ月前。
オーディションに受かったその日から、すぐに舞台に立たせてもらった。
最初は観客の前に立つことすら恐ろしかったけれど、今では不思議とその瞬間が待ち遠しく感じるようになっていた。
観客の前で自分を見せること、それが今では彼女の中で生きる力となっていた。

舞台の裏には、他にもいくつかの女性たちが控えている。
エミリーはそれぞれに軽く会釈をして、みんながそれぞれの準備をしている様子を見守った。
彼女たちの顔には決して緊張した様子はなく、まるで舞台が彼女たちの第二の家のように感じられた。

「今日のテーマは【Enticement(エンタイスマント)「誘惑」】」
リズが声をかけてきた。「観客を引き込むのは、ただのセクシーさじゃない。あんたの内面にある何かを、舞台上で見せるの。自分を信じて。」


エミリーは深く頷き、リズの言葉を胸に刻むようにした。
バーレスクはただのダンスショーではない。
観客を夢中にさせ、魅了し、時に驚かせ、最後には彼らを手のひらの上で転がすアートだ。
それには演技力、表現力、そして何より自分自身をさらけ出す勇気が必要だった。

舞台袖で待っているうちに、心の中で自分に言い聞かせる。
「これはただのパフォーマンスじゃない。これは私の物語、私の力。」
そう言い聞かせることで、エミリーは恐れを感じることなくステージに踏み出す準備が整った。

そして、ついに名前が呼ばれた。
観客の拍手と歓声が一気にエミリーを包み込む。
スポットライトが彼女を照らし、彼女は静かに足を踏み出す。
曲が流れ始めると、体が自然にリズムを取り、エミリーはその瞬間を感じた。
観客の視線が、自分を鋭く、しかし温かく見守っている。


「どうせなら、楽しんでやろう。」
エミリーは心の中で呟き、舞台の中央に立った。
ドレスの裾をひらひらとさせながら、彼女はその身をくねらせ、情熱的なダンスを披露していった。
照明の光が彼女の肌を照らし、ステージ上の彼女はまるで一人の女神のように輝いていた。

途中、目を閉じてみる。
今の自分は、何もかも忘れて、音楽と体の動きに委ねている。
エミリーではなく、別の自分。

だが、ふと冷静に目を開けると、目の前には見覚えのある顔があった。
席の一番前に座っているのは、ギャレット—以前、エミリーがダンススクールで一緒に練習していた、あの男性だった。
彼の瞳は、ステージ上のエミリーをじっと見つめている。
少し驚き、少し戸惑いながらも、エミリーはその視線を感じて体を動かし続けた。

舞台が終わると、エミリーは観客の拍手の中で深呼吸をしながら、舞台裏へと戻った。
背中を支えるスポットライトの熱が、まだ身体に残っている。
心地よい疲れが広がり、安堵感が胸に流れ込む。

その時、ギャレットが舞台裏にやって来た。

「素晴らしかったよ、エミリー。」
彼はそのまま、少し照れくさい笑顔を見せた。
「あの頃の君は、あんな風に踊らなかったけれど、今の君は本当に素晴らしい。自分を見つけたみたいだね。」

エミリーは少し微笑んで、答える。
「ありがとう。でも、今の私はエミリーじゃないの。今の私は…ただの『シルクとスポットライト』にすぎない。」

ギャレットは黙って頷き、しばらくその場に立ち尽くしていた。

エミリーの目の前には、まだ多くの未来が広がっている。
これから先、何度も舞台に立つだろう。
そして、ひとたびそのスポットライトを浴びれば、エミリーという人物を超えた、何者かに変わっていく自分がそこにいる。
彼女が見せるのは、ただのダンスではなく、観客にとっては夢であり、幻想であり、そして最も深い欲望を引き出すもの。

彼女はそれを知っていた。スポットライトの下で自分を解放することこそが【真の自由】なのだと。

【 完 】


最後まで読んでいただき、
ありがとうございます🫰🏻💗

Genuine freedom(ジェニュインフリーダム)とは、「本物の自由」または「真の自由」という意味があります。
エミリーはスポットライトの下で【真の自由】を見つけました。
あなたにとっての【真の自由】とは...💫

他の作品もありますので、機会がありましたらまた、お立ち寄りください🌙*·̩͙

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