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『ステップファザー・ステップ』宮部みゆき(講談社文庫)

☆3.6

金持ちだけを標的にしている泥棒の俺は、仕事のためある家に忍び込もうとした時、落雷のせいで屋根から落ちた。
それを助けてくれたのは中学生の双子の直と哲だ。
両親がそれぞれの愛人と駆け落ちしてしまい、残された二人で暮らしているらしい。
双子が暮らしていくお金を得るため、半ば脅される形で泥棒の手助けを双子がすることに。
上手く侵入できたターゲットの家の中で俺が見たのは、壁という壁につけられた鏡に囲まれた異常な景色だった……

というのが一編目「ステップファザー・ステップ」のあらすじ。
双子との出会いですね。
映像を思い浮かべながら読むと、この話がいかに驚きに満ちているか存分に堪能できるなぁ、なんて思いながら読む。
泥棒だけど怖くなくてなんだかちょっと可愛いお父さん。
双子が目をつけちゃうのもわかる気がする。


「トラブル・トラベラー」
なんだかんだ双子と交流が続いてる俺。
手紙とかもらったりしてなんだかむずがゆい。
ある日双子が旅行先で置き引きにあってしまう。
助けを求められた俺は、倉敷の町を模倣した暮志木という町まで二人を迎えに行くと共に、町の美術館にある絵を見に行くことにした……

俺、絆されるのはやい(笑) 
こんな仕事をしているお父さんならではの謎解きですね。
双子は純粋に旅行楽しんでて肝がすわってるな。


「ワンナイト・スタンド」
授業参観と父母会に出てほしいと双子にお願いされた俺は、渋りながらも父親のふりで行くことにした。
双子が授業参観で企んだいたずら、学校に送られているらしい脅迫状、指に見えた黒いインク、と何だか気になることがいろいろとあるのだが……

なるほどなるほど。
ただのいたずらで終わらせて丸くおさめられたら一番それが良いよね。


「ヘルター・スケルター」
直が盲腸炎で入院し、また父親として病院へと向かう。
双子の家へ滞在することにしたが、そこへ警察官が訪れた。
近くの湖畔での交通事故の捜査中、一年前に沈んだと思われる事故車が発見され、乗っていた白骨死体の身元を調べているという。
一年前、男女二人。
まさか双子の両親だったりはしないだろうか……

双子と仲良くなりつつも、いろんな迷いがお父さんにはあるのです。
賢くて度胸のある双子。
双子の内面も知りたい謎の一つかな。


「ロンリー・ハート」
正月を間近に控え、双子との距離感に悩む俺。
両親がいつか帰ってきた時の別離を思うと、胸が痛くさみしくなるほどには情もある。
その本心を含めて少し離れることを双子に告げ、年末は頼まれ仕事に励もうとしたところ、この仕事が思わぬ展開をしていき……

この関係性をどうしていくか。
お父さんの吹っ切り具合が潔すぎてにこやかに読み終わる。
そうだ、それで良いんだよ。


「ハンド・クーラー」
花粉症にかかった双子は通う病院で一人の女の子と友達になった。
その子の家では、何故か山形新聞が放り込まれるという謎に悩まされているらしい。
その家では山形には特に縁もなく、自ら取っている訳でもない新聞が放り込まれ続けて不気味に思っている。
その謎に双子も取り組むが……

鼻が詰まっていつもよりくるくる交代しながら話す双子がかわいそ可愛い。
どうしようもない思いを、どうしたいかわからないままに苦しんだ結果の謎だったんだろうな。


「ミルキー・ウェイ」
ふらっと立ち寄ろうとした双子の家。
通りから見える玄関扉が中途半端に開いたままになっていた。
嫌な予感に包まれてながら家に近づいてみると、一人の男がいた。
そしてその男は言った。
「哲と直。私の息子です」と……

双子との別れにほとんどパニックになるお父さんですが、ちゃんと息子たちのために頑張るお父さんしてますね。
かなり力業の多いお父さんですが、双子にとっても大事なお父さんなのです。



以外はネタバレありで。






七編収録されていますが、どれも双子とお父さんの軽快な会話や、お父さんのユーモラスな一人語りのおかげで大変読みやすい。
起きている事件は結構大きなものだったり人も亡くなったりしてるほどの深刻さのものもあるのに。
お父さんの泥棒という仕事柄、そうそう慌てないことも原因かもしれない。
本人もお金奪ったりと悪いことさらっとたくさんしてますし。

そんなお父さん、双子のこととなるともう冷静じゃいられない。
何かあったらもうあたふた。
誘拐された時なんて、手段選ばず力業で即解決。
実は最初から二人に骨抜きじゃん。
そんなお父さんを愛でるのもこの作品の楽しみ方のひとつ。
昔ドラマで上川隆也さんが演じていたな、と懐かしく思い出しました。

双子の内面がどんなものだったのかは永遠の謎になってしまうかな?
どうしてここまでこのお父さんにこだわったのか。
本物の両親に対しての想いとか。
語られないからいつまでも気になってしまいます。

続編がほしいような、あってほしくないような。この擬似親子がいつまでも楽しく暮らしていてくれたら良いな。


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