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「一勝九敗」で世界的な企業になれるのか?

ユニクロの柳井正の著書「一勝九敗」を読んだ。

この本の存在は以前から認知していたが、手にとってこなかった。ユニクロがかつてブラック企業と呼ばれていた頃の印象もあり、どちらかというと「気合と根性」みたいなことが書かれているのかな、と思い敬遠していたのだが、実際読んでみると印象が違った。

確かに気合と根性が必要な場面はある。ギャンブル的な「賭け」に出ることも商売においては必要だ。しかし、どちらかというと、柳井正は研究家タイプというか、研究しながら未踏の領域に踏み込んでいく性格なのかな、と思った。

まあ、考えてみたら気合と根性だけで世界に通用する会社なんて作れないわけで、そういう意味では自然なことなのかもしれないが。

ビジネス書、特に成功したビジネスマンの書いた本は、あまり読む価値のないものも多くある。自慢話に終始して、再現性がなかったりするのだ。では、成功したビジネスマンによる「読む価値のある本」というのはどういうものだろう。

ユニクロは90年代の後半に「フリース」を当て、そのブームに乗って急成長したのだけれど、いまからフリースを作っても意味がないし、90年代に戻れるわけでもない。しかし、どういう思考で会社を経営してきたのか、そういう「考え方」の部分は参考になるし、読んだだけ、自分の血肉になるような感覚もある。

読む価値があるということは、それだけ柳井正が「考えながら」ビジネスを成長させてきた、と言えるだろう。特に何も考えず、なんとなく運だけで成功したわけではないということだ。

柳井正の仕事人生を通じて、「ビジネスを丸ごと動かすこと」について書かれているのが印象的だった。もともと服屋というのは小売店なわけで、メーカーが作ったものを流通させるのが仕事なわけだけれど、ユニクロは早い段階から自社で企画して商品をつくるということを発想し、いまでは製造小売の代表的な会社として知られている。

製造から消費者にお届けする流通までを一手に引き受けることで、どのステークホルダーにも左右されにくい、「ビジネスを丸ごと動かす」ことができるようになるわけだ。リスクも何もかもを背負うことにはなるが、ダイナミックな商売をすることができるようになるのだろう。

もちろん簡単なことではない。ものを右から左に動かしてチャリンチャリンとお金が入るビジネスとは違って、ひとつひとつの商品を作って、ひとつひとつ売っていくのだから。考えただけで気が遠くなるような作業である。

余談だが、経営戦略の専門家である一橋大学教授の楠先生も、よく著書で「ビジネスを丸ごと動かすこと」を言っている。ユニクロのビジネスにも関わっている先生なので、もしかしたらこれは柳井さんから学んだことなのかもしれない。

タイトルの「一勝九敗」の意味もまた面白い。ユニクロは一代で世界的な企業になっているわけだから、九敗もしとらんやろ、と正直思っていたのだが、消費者からは見えにくいところでたくさん失敗しているということで、「普通の人なら、失敗と受け取らないようなことも失敗として受け止めている」という意味のようだ。

通常であれば「運が悪かった」「相手が悪かった」「市場が悪かった」で終わらせるところを、明確に「失敗」として捉え、学び、手を打ってきたからこそ、いまの成功があるのだろう。そういう意味で研究家だし、現実とそのまま向き合っている強みを感じたのである。

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