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肉じゃがは幻のレシピとなるか?

先日、ネットで面白い記事を読んだ。家庭料理の定番である「肉じゃが」が「おふくろの味」として定着したのは、1970年代のことだというのである。

いろいろ調べてみると、料理としての起源をさかのぼっていくとかなり昔からレシピとしては存在していたようなのだが、いわゆる「家庭料理」として本格的に定着したのはそれなりに最近、ということになるらしい。少なくとも戦前から一般的に食べられていたような、伝統的な日本料理、というわけでは決してないようだ。

そもそも日本古来の文化では肉を食べる風習はないし、じゃがいもも近年になってから輸入されてきたものだと思うので、確かに納得ではある。しかし、肉じゃがというのは家庭料理としてかなり定番とされているが、どうやってその地位を確立したのか、考察してみるとなかなか興味深い。

いまの10代、20代はあまり肉じゃがになじみがない、という声もある。考えてみれば、僕はいま35歳だが、当然実家にいたときはよく出されて食べていたものの、社会人になって家を出てからはほとんど口にしていない。

コンビニの惣菜などでも一応存在はしているが、買ったことはない。たまに定食を食べたときに、副菜として小鉢に盛られている程度だろうか。自分で自発的に作ったことはない。肉じゃがに馴染みのある世代であってもこういう調子なので、たしかにいまの10代、20代にあまりなじみがない、というのは納得かもしれない。

肉じゃがというのは実はカレーの一種だとみなせる、という話がある。カレールゥを入れるまでの工程がほとんど同じだから、だそうだ。それを言うなら、ビーフシチューなどの一種ととらえることもできるだろう。

肉じゃがが家庭料理として定着した1970年ごろは、高度経済成長期で、子どもがたくさんいる家庭が多かったイメージがある。一人暮らしの家でわざわざ肉じゃがを作る人はそういないと思うが、家族が5人、6人といるような家庭では、とりあえず肉じゃがやカレーなどの煮込み系のものを作らないと、食事の用意が面倒だろう。なので、カレーやビーフシチューの一種として登場したに違いない。

2020年代の現代にあっては、少子化で家庭の人数も減ったし、シチューやカレーがレトルトなどで非常に手軽で安価に手に入るため、肉じゃがをあえて作ろう、という発想にはならないのかもしれない。

どちらかというとカレーのほうが発展しすぎて、肉じゃがのポテンシャルを奪っているような気がする。企業努力が行き届いて、たとえば無印良品のレトルトパウチでも相当本格的なカレーが食べられるようになったので、お役御免、というところだろうか。

というわけで、肉じゃがというのはすでに時代に取り残された「昭和の幻のレシピ」予備軍であるような気がしている。なんとなく、昭和の風景とともに連想される、時代の文化遺産レシピの仲間入りをしているような気がするのだ。

もちろん、現役バリバリで肉じゃがを作っているよ、という家庭もたくさんあると思うのだが、10年、20年後はどうなっているかというと、かなり出番が少なくなっているのでは、と思うのである。

時代の文化遺産になってしまいそうなレシピというのは、ほかにもありそうに思うのだが……。

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