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AIは人類の能力向上に役立つか?
「AI」は、果たして人類の「知能の向上」に貢献しているのだろうか。
AIと人類の関わりについて、将棋AIを通じて最近考えたことがあるので、少し整理してみたい。
僕が将棋を指し始めたのは2年ほど前からなのだが、将棋AIについてはそれより以前から関心があった。2010年台半ばには人間とコンピュータが戦うというコンセプトの「電王戦」という棋戦があり、それに関心を持った。そのころはちょうどAIが強くなっている過渡期にあり、「人類とAIはどっちが強いのか?!」みたいな議論が盛んに行われていた。
今となってはAIのほうが強いことは常識であり、議論の余地はない。ちょうどそんなときに藤井聡太という天才棋士が登場したので、まるで藤井聡太が「AIの申し子」みたいに言われることがある。
しかし、将棋関係者は、AIと藤井聡太の台頭は、もちろん無関係ではないにせよ、世間で言われるほどの関連性は薄いとみていたようだ。
なぜかというと、藤井聡太の真骨頂は中盤での読みの深さと、終盤での正確さにある。プロも参加する詰将棋選手権という大会があるのだが、藤井聡太は小学六年生で優勝している。
トッププロもしのいでの優勝ということで、大いにざわついたそうだ。この頃はまだAIは導入していなかったらしい。つまり、藤井聡太はほんらいAIとは無関係に強いのである。
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AIによって最も変わったのは「序盤の整備」と言われている。つまり、最初の数十手ぐらいはなんとか人間でも暗記できる範囲なので、AIでさまざまなパターンを研究することで「最善手がわかる」ということだ。
最近だと、二日制のタイトル戦でも初日の数時間ぐらいでパタパタと手が進むことが多くなった。両対局者が「最善」をわかっている進行であれば、考える必要はないということだ。そのうち長考に入るようになるのだが、それは研究から外れたことを意味する。
将棋は信じられないほど複雑なゲームなので、完全に解析はできないし、すべてのパターンを暗記することもできない。なので、絶対にいつかは研究から外れる。つまり、そこからは力勝負となる。
序盤が完璧であれば中終盤の力量がものをいうわけで、その部分が規格外に強い藤井聡太が最終的に勝つ。そういう状況になっている。
もちろん、プロ同士はものすごくレベルが高く、細かいところで切磋琢磨しているので、素人と玄人ほどの差があるわけではない。しかし、AIを用いた研究によって身に付くのは「知識」であって、本質的な将棋の力ではないということだ。
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自分も将棋を指し始めて、いろいろと発見があった。まず自分でネット対局をして、棋譜をAIで解析してみる。AIは一瞬で答えを返してくれる。それをみて、「ああ、こうすればよかったのか」と納得する。それが今までの自分の取り組みだった。
しかしあるとき、「これって、このままやってても一生強くならないのでは?」と思った。なぜなら、これだと答えを見て暗記しているだけでしかなく、再現性の少ない局面の解答を知ったところでなんの意味があるのか。「こっちが正解だよ」と教えてもらったとしても、なぜそれが正解なのか、深く理解しないと意味がない、と思ったのだ。
もっとも、意味のあるなしでいうと、将棋をすること自体、まったく意味がないともいえる。つまり、ゲームってそういうもの。AIにかければ一瞬で答えが出るところを、一生懸命頭をひねるから面白いのだ。解答をみて「ふーん、なるほどね」では、その面白みの部分の大部分を放棄していることになるのではないか、と。
なので最近は対局が終わってもすぐにはAIにかけず、自分なりに対局を振り返るようにしている。こっちは相手の手を読みながら指しているわけだが、予想外の動きをされたり、思ったように進行しなかった、ということが大いにある。また、時間制限があるので十分に時間をかけて考えることができなかった局面もある。
それをAIを使わずに振り返ってみて、「ここらへんの手がまずかったのでは?」と自分なりに考えてみて、「こうしたらよかったのでは?」まで考えてみることにした。また、一局全体のなかで、「ここらへんは優勢だけど、ここらへんから劣勢になった」のように、形勢判断もやるようにした。
AIは優秀なので、そういった自分の「仮説」に対して、答えを提示してくれる。しかし、最初から答えを見ても意味がないというのはその通りで、こうして「自分で考える」プロセスを取り入れることには意味があると思っている。
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AIは自分を強くしてくれない。AIは「答え」を教えてくれるだけ。自分が頭を使わないと強くならないのだ。藤井聡太が強いのは、誰よりも「考えることが好きだから」なのかも。
これは将棋AIに限らず、生成AIなどが台頭してくるこれからの時代にあって、重要な考え方なのではないか、と思っている。AIを使ってラクをしようと考えるが、AIを使えば自分の能力をもっと鍛えることができる、と考えるか。
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