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処理水問題の問題

連日、原発の処理水海洋放出の話題でメディアが賑わっている。

あんまり政治的なことは話題にしないつもりではあったけれど(変なのに絡まれてもめんどくさいので)、これについてはちょっと思うところがあるので、少し考えてみる。

原発処理水が有害なのかどうか、という点については「無害」ということで異論の余地はない。日本政府がそう言っている、というだけではなくて、第三者機関の調査も出ているし、モニタリングしている数値からも明らかである。

なので、これを騒ぎ立てている人も、問題の焦点はそこではない、ということはわかっているものと思われる。

処理済みで、無害とされる水を海洋放出することの何が問題なのか? というと、何も問題はない。放射能で汚染された物質を処理した水で、もはや飲料水よりもクリーンな状態になっている水を、さらに希釈して海洋放出する、という話である。なんなら、海水よりも綺麗な水を海洋に解き放つということなので、なんら問題はない。

問題があるとすれば、中国などの国がそれを非難し、日本の海産物輸入を停止したりすることなどによる被害だろう。そもそも、科学的な根拠に基づいた批判ではなく、中国だって処理済の水を海洋放出しているわけで、難癖以外の何ものでもない。

つまり、構図を見れば、恐喝となにも変わらない、ということになる。いま、中国ではこれを受けて、デモが起きたり、日本製品の不買運動にまで発展しているという。

なんだかデモというと、かなり懐かしい感じがする。尖閣諸島をめぐってのデモは2012年ごろ盛んにおこなわれていて、ちょうど僕はその頃よく中国に出張に行っていたのでよく知っている。一度、上海出張から帰国するとき、JALの飛行機が離陸体制に入ったものの、管制塔から離陸の許可が下りず、数時間機内で待機させられ、一度出発が取りやめになったことがある。

そのとき、税関を通過して出国手続きを済ませたのだが、航空会社が用意したホテルに移動することになり、また税関を通って世にも珍しい「出国取り消し」のスタンプをパスポートに押された。なかなか貴重な思い出である。

あのときでさえ、僕個人として日本人ということで嫌な思いをしたことはなく(一度、北京でタクシーの乗車拒否があったが、上海では何もなかった)、一般市民はみんな友好的だった。市内で暴れていたのは、あまり国際問題に関心のない若い層と、「誰か」に雇われて仕掛け人となっていた人々だ、と言われていた。

結構激しくデモが行われていたものの、現地を見た実態としては、それほど問題がある感じではなかった。もう10年以上前のことなので、一昔前という感じがするが……。

中国ではバブル崩壊がはじまっていて、銀行の連鎖倒産などが起きている。尖閣諸島のときもそうだったが、そういった内政の問題の矛先を変える、ひとつのネタだといえる。そういうことをやる国だというのはわかっているので、いまさらどうこう言うつもりはないが。

個人的にひどいなと思ったのは、日本のマスコミである。問題がないのに、問題があるかのように報道をする、という姿勢は非常によくない。メディアの特性としては、「問題ありません」という報道では注目が集められないので、「こういう問題が起きています!」という報道を好んでするのだろう。これが一番問題な気がしている。

「風評被害」というが、単に中国から難癖をつけられているだけなので、「風評被害」でもない。それを問題であるかのように報道することが問題なのでは、と思う。

中国に対して輸出ができないので、日本の海産業界の人は大変だと思うけれど、中国とアメリカが政治的な駆け引きで関税をバカみたいにかけあったり、輸入停止措置をとったりしていることを思えば、もともとそういう国なのでチャイナリスクの一環としてとらえてもらうしかないのでは、と思う。

経済規模を知るために少し調べてみたら、日本の海産物の輸出総額は2873億円(2019年)で、そのうち中国向けは16.9%ということである。つまり、金額にしたら500億弱、というところだろうか。

一方、日本の海産物の輸入は1兆7000億円を越えるので、それを思えば小規模だ、ともいえる。マスコミも、報道をするなら「処理水は無害である」という報道をしてほしいし、中国向けに海産物が輸出できないのなら、「国内消費を促進する」報道をしてほしい、とも思う。

正直、この点において政府を批判する日本人は国益を損ねているし、中国の思うつぼだなと思う。さすがに専門家では誰もいないが、日本政府を批判している芸能人などがいるようだ。ワクチンのときも思ったのだが、バカをあぶりだす構図になっているな、と思うのである。

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