ヒロインが喋りはじめたら
漫画「鬼滅の刃」が人気だ。
僕は一応、日経新聞をくまなくチェックしているのだけれど、さすがにこれだけ日本経済に影響を与えていると、日経新聞にもちょいちょい出てくる。ちょっと前には、菅義偉首相が国会答弁で「全集中の呼吸で(作中で必殺技を出すときに必要な所作のこと)」と発言したことも話題になった。
誰の入れ知恵かは知らないけれど、それぐらいは社会的にインパクトがあった作品、ということだ。ちょっとした社会現象と言い換えてもいいかもしれない。
「鬼滅の刃」でちょっと変わった点としては、ヒロインが「主人公の妹」で、しかも「喋れない」、というところだと思う。
生来喋られないわけではなく、ある特殊な事情があって喋れないのだが、とにかくセリフがない。一応声優はいるのだが、「ムー」とかなんとか言っている「演技」をしている。
これはけっこう難しそうだが、動物役で似たようなことをやっている声優も多いので、そういうことができるのもまたプロなのだろう。
さて、ヒロインは喋らない。こっちの言うことは聞くが、向こうから話すことはできない。ただ、こうなると、ヒロインが異様に幼く見えるのだ。
設定を見ると14歳らしいのだけれど、ぜんぜんそんな風には見えない。設定を詳しく見ていくと、「鬼」となったことで記憶の混濁や幼児化も進んでいる、ということなのだが……。
*
僕は外国語大学に通っていたので、キャンパスには留学生がたくさんいた。
留学生はもちろん日本語を勉強しに来ているわけで、こちらが英語やフランス語で話すことはあるが、相手は日本語でよく話しかけてきた。学生の語学レベルなので、日本語ではたいしたことは話せない。
だから、当然、会話のレベルも落さざるを得ない。難しいテーマでは会話にならないのだ。
しかしもちろん、彼らの知能が低いわけではもちろんない。思考のレベルは大学生なのだが、それを外国語に変換する能力が中学生とかそのぐらいのレベルなので、必然的に会話のレベルもそれぐらいになってしまう、というだけだ。
日本語や英語で話をしていて、一人ぐらいがついてこられなくなると、たまに語学ができる人が母国語で説明することがあるのだが、10分ぐらい話していた内容が、母国語ならば10秒ぐらいでキャッチアップできてしまう(それぐらい低いレベルの会話だった、というのもあるだろうが……)。
その瞬間、目の前にいる外国人が、急に何歳か年上に見えたものだ。それまで、幼稚な会話をしていた相手が、急に流暢に話しはじめる(母国語で)。
思考は言語によって統制されるというが、表現できる言語のレベルに合わせてしまう、というところはどうもあるようだ。はじめから母国語同士の議論だったら、そもそもテーマがもっと高度なものになるだろう。
*
「鬼滅の刃」のヒロインが喋りはじめたら、きっともっと年齢は上に感じるのだろうな。いまの感じだと、よくて幼稚園児、ひょっとするとちょっと賢いペットのようなレベルだ。
年齢相応か、それとも現在のままか……。どっちが人気が出るのかは、ちょっとわかりませんが。
サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。