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Qwerty配列の謎

「Qwerty配列」という言葉ある。一度ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。

もしこの文章をパソコンで見ているのならば、画面から視線を少し下に落として頂きたい。キーボードの左上のほうに「Q」のキーがあるはずだが、それを右に読んでいくと「Q-W-E-R-T-Y」になる。要するに、現代では一般的なキーボード配列のことだ。

僕の母はパソコンは一切使えないが、ずいぶん前にiPadを購入したところ、それを使ってインターネットなどが使えるようになった。しかし、このQwerty配列には一切馴染みがないため、入力はすべて五十音(あいうえお)で入力している。

iPhoneを発表するとき、スティーブ・ジョブズは「人によって最適な入力は異なるはずなのに、キーボードがひとつしかないのはおかしい」といった主旨のことを話していたが、確かにこれは正鵠を射ている。昔、母に「なんでキーボードの配列ってこんなランダムなの?」と訊かれたことがあるが、特に理由なんてないので答えられなかった。

だが、パソコンソフトのブラインドタッチを覚えた身としては、とりあえずこの配置が一番やりやすい、というのはある。

なぜQwerty配列はこの配列なのか。調べてみると、けっこういろんな説が出てくる。その中では、自分の知らない説もあって、結構面白かった。

当時のタイプライターの営業が「Typewriter」と入力する際、上段だけで入力ができるから、と言う説があったが、なかなか面白い理由だ。そもそも、全部上段にあるからといって入力しやすいと思ったことはないし、「Typewriter」とだけ入力するデモンストレーションがあるだろうか。やるとしても、「Hello, world」あたりだと思うが(プログラミング初学者の視点)。

非常に有力なのが、「昔はタイプライターの性能が低かったので、勢いよく入力するとアームが絡まってしまう」という理屈だ。これが真実であるかのように書いてある文献も多いのだが、果たしてそうだろうか。

英語圏でもasdあたりのキーはよく使うと思うのだが、わりと左のほうに集中しており、これで本当にアームの絡まりを阻止できるのかは怪しい。ちなみに、日本語入力の場合、母音のaが左手小指部分にあるため、この部分を酷使する結果になってしまい、自分は普段から非常によく文章を書くので、常に左手小指が軽い腱鞘炎だったりする。

まあそういう欠点はあるにしても、ほどよくキーが分散されているQwerty配列は馴染みがあり、そこまで不満がないので、とりあえずこれでいいか、と思って使っている。

日本語入力に特化した「親指シフト」というものもあるようだが、一時期習得しようと思ったものの、かなり早い段階で挫折したことがある。

つまり、「なぜQwerty配列なのか?」という問いに対する最も誠実な回答は「よくわからない」であり、「なぜQwerty配列を使うのか?」の回答は、「昔からよく使われており、これからもよく使われるだろうから」ということになる。

つまり、理由は一応あるものの、あまり深い理由はない、ということになる。Qwerty配列よりもいいとされる配列を提唱した人はいるらしいが、あまり普及はしていない。いったん定着した人々の習慣を変えるのは難しい。

「新しもの好き」の人たちがいるが、これはあまり一般的ではなく、むしろ特殊だと思う。「新しいものが好き」なのは、一種の哲学、思想だろう。

新しいものとは、常にいいわけではなく、むしろ確率的にはダメである可能性のほうが高い。「枯れた技術」と言う言葉があるが、成熟した分野のほうがメリットやデメリットが整理されており、見通しが立てやすい。だから、利をとるなら新しいものにはすぐに手を出さないに限る。

しかし、Qwerty配列に意味なんてないように、大して意味もないのに一般的になってしまっている概念というのもこの世界にはまだまだたくさんあるのだろう。宇宙人から見たら、「なんでこんなことになってるのだろう?」と不思議に思うようなことがたくさんあるはずだ。

そういうのをあぶりだすためにも、「新しいもの」に関心を向けるのは大事なことなんだろうな、と。その結果古いものがいい、という結論になっても、別にいいじゃないか、という「思想」だ。

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