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SNSと「民度」について

我が家の徒歩圏内には、複数の大手寿司チェーン店がある。好んでよく行っているのはH寿司である。

だが、たまには違うところにも行ってみようということで、気まぐれで先日、ひさびさにK寿司に行ってみた。すると、しばらく来ないうちに少しだけ雰囲気が変わっているのに気づいた。

まず、ちょっと内装がシュッとしている。それだけでなく、単価も若干あがったようだ。これまで100円の皿が最低価格で、それがメインだったと思うのだが、一番安いものでも125円に値上がりしていた。ほかにも、タッチパネルで注文するネタは200円以上のものが主流になっていて、丼ものなどのサイドメニューでは、1000円を超えるものもあった。

もちろん、一般的な寿司チェーンのレベルを外れないぐらいではあるのだが、ちょっと単価が上がっていたので驚いた。味はその単価を上げた分だけ美味しくなっていたと思うので、妥当な変化だとは思うが。

一方、H寿司は普段から通っているというのもあるだろうが、価格にはあまり変化を感じない。この違いはなんだろうか? と考えてみると、「寿司が回転しているかどうか」がポイントなのか、と思った。

普段通っているH寿司は、もはや「回転寿司」ではなく、「回転するレールそのもの」がない。注文はすべてタッチパネルで行い、注文都度届けられるシステムである。

一方、K寿司は「回転寿司」の伝統を守っていて、寿司ネタがレーンのうえを回転している(もっとも、タッチパネルのシステムにかなり力を入れているので、こちらで注文するほうが多いのだろうが)。

なぜこのような違いがあるのかというと、ちょっと前からニュースを騒がせている、「SNSテロ」が要因としてあるのだろう。つまり、不衛生なことをふざけ半分でやり、その様子を収めた動画をSNSなどに拡散することによって、企業が被害を受けるリスクについて考えているのだ。

僕が普段通っているH寿司は、そういったリスクを受けてか、寿司をレーンに乗せることをやめ、オーダー都度提供することによってリスクを回避しようとしている。面白いのはK寿司の戦略で、寿司ネタを従来どおり回転させ続ける代わりに、単価を上げることによって「客層を変えよう」としている、というところである。

つまり、激安の価格帯から脱することによって、不衛生な行為を平気で行い、後先考えずに動画として拡散してしまうような人間が寄ってこないようにしてしまおう、ということである。ネット的にいうと、「民度」を上げよう、ということだ。

少なくとも、狙いというか、その熱意は伝わってきた。残念ながら店内を見渡すと、店の中を無秩序に走り回る子どもや、やたらと口の悪い母親たちなどがいたので、それほど客質がよくなっているという印象はない。

もうちょっと単価を上げていかないと変化は生じないのだろうが、いきなりそこまで変えてしまうのはリスクが大きい、ということだろうか。

以前、有名飲食店で、テレビの取材を頑なに断っている店がある、というのを聞いたことがある。素人考えだと、テレビなどのメディアで紹介されることは集客につながるので、積極的に出るようにしたほうがいいように思えるのだが、そういった有名店は「テレビで紹介されることによって、ミーハーな客が大挙して押し寄せること」を嫌っているらしい。

なぜなら、それによって一時的に客の質が下がるからだ。それで評判が下がるかもしれないし、常連が離れるきっかけになるかもしれない。なので、そもそもテレビに出ること自体が得策ではない、と。

本当に実力のある店ほど、「客質」についてはよく考えられていると思う。積極的に悪い客を入店拒否しているわけではないが、それとなく客質を良くするように誘導している。そして客のほうも、地位が上がるほど「客質」を求めて高い店に行くようだ。上流階級で、ドレスコードのある会員制のクラブやラウンジなどがあるのもそうした理由なのだろう。

昔はあまり気にならなかったが、少しずつそういうことが気になるようになってきた。「周囲の客のレベルを求めて」それなりに値の張る行動を選択することもあるとは、自分でも意外だ。

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