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「賃上げ」で生活は豊かになるのか?

最近、テレビのニュースなどでよく「賃上げ」という言葉を見かける。僕は専門家ではないので厳密に理解しているわけではないのだが、テレビで報道されている「賃上げ」の内容に対して、少し違和感があるので、それについて書いてみたい。

賃上げがされず、日々の仕事が苦しい、と訴えている人がよくテレビに映っている。しかし、それの根本的な原因は「賃上げがされないこと」なのかな、という違和感である。

こないだテレビで見たのは、「賃上げがされず、これからもされる気配がないので、将来が不安」という非正規雇用の女性だった。

いわゆるベースアップ的な、基本給を底上げしましょう、というのが賃上げだと思うのだが、もちろん、基本給を底上げするだけなので、賃上げをしてもたとえば10万円というレベルで給料が増えるわけではない。

多くとも1〜2万円ぐらいが上乗せされる、というようなイメージだろうか。もちろん少なくない金額ではあるものの、それだけで生活が急に豊かになるかというと、別にそんなこともない気もする。

基本的な賃上げの機能としては、「社会情勢に合わせる」ことなのだろう。つまり、インフレして、通貨の価値が相対的に下がったとき、給料が据え置きだと実質的に目減りしてしまうため、それを合わせる、というようなイメージだ。

インフレしたから、町中華の天津飯を50円値上げします、みたいな感じだろう。もっとも、日本は長いことデフレ社会だったので、インフレによって通貨の価値が下がる、ということにはあまり実感がないのかもしれない。

いまの物価高騰は、インフレのせいというよりはむしろ戦争などに起因するものだと思うので、それが「賃上げ」の対象になるかというと、それはちょっと違うような気もするが。どちらかというと一時的なものだと思うので。

「ベースアップ」という言葉は聞いても、社会情勢が安定化したので「ベースダウン」します、みたいなことはあまり聞かれない気もする。給料があがるのはポジティブな話だが、下げるというのは社員にとっては死活問題なので、企業はこのあたりは慎重にやるだろう。言葉としては、一応あるみたいだが。

「賃上げ」というのは、極端な話、個人にとってはあまり関係のない話だと思っている。なぜなら、個人個人にとってしてみれば、賃上げの幅よりも経験や能力が増すことによる「昇給」の影響のほうがはるかに大きいからだ。

平社員で賃上げされるよりも、主任、係長、課長と出世していくほうが給料の上がり幅は大きい。上述の通り、賃上げというのは基本的には「社会情勢に合わせる」ものだとすれば、微調整にすぎない、ということになる。

公務員や大企業などだと、昇格による給料アップだけでなく、勤続年数が増すことによる昇給もあるけれど、それも出世してあがる幅よりは小さいので、基本的にはそれらすべての昇給要因を組み合わせて一人一人の生活というのは成り立っている、ということになる。

なので、非正規の人は賃上げがされず、生活が苦しいのは確かかもしれないけれど、賃上げされればすべてうまくいくというわけでもないので、ちょっと根本の考えのところに違和感があるのである。

確かに非正規雇用は昇級や昇格などもない、というのはあると思うのだけれど、キャリアプランをだれかが考えてくれるわけでもないので、仕事の範囲を広げて交渉したり、転職したり、というのを自分で繰り返して「昇格」していくしかないのだろう。

商売をやっている人が、「技術が成熟してきたので契約金額をあげます」というのが通用しないのとだいたい同じ論理である。会社員は年々給料が上がっていくような仕組みになっているが、やっている仕事の内容は年々難しいものになっているので、日々契約が更新されているような状態とも言える。

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