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天職とは何か?

新卒の頃から感じていたことがある。それは、「入社時にやる気のあるやつほど早く辞める」「やる気のないやつほど意外と続く」の法則である。

これはどの会社にでも当てはまることではないのかもしれないが、少なくとも自分が最初に勤めた会社では、自分の中ではもはや定説と化していた。

なぜなのか。いろいろ理由があるように思う。まず表面的な理由は、わりとブラックめの社風だったため、能力が高くていろいろできるやつには仕事が鬼のように降ってくる、という側面があったからだ。

会社の体質がブラックだったというよりは、業界全体がそういう感じだったため、致し方ない部分があったかもしれない。だから、やる気のあるやつは早めに中間管理職になる代わりに、鬼のように降ってくる仕事に耐え切れずやめてしまう、という結果に繋がった(逆に言うと、その中間管理職を耐え抜いた百戦錬磨の社員が役員になる)。

実をいうと僕もそのタイプで、最終的には6年間勤めたのだが、最後らへんは月の労働時間が400時間を超えるなど(一ヶ月に1日も休みがなく、平均労働時間が一日あたり13時間超)して、その常軌を逸した労働環境に限界が来てやめてしまった。

しかし、それとは別のところで、「やる気がある」人は仕事の良い面ばかり見てやってくるため、実際にやってみると「そんなにカッコいいものじゃない」「イメージと違う」とギャップを感じて、結局やめてしまう、という結果につながるものも多かった。

逆に、最初はやる気はなかった人はそもそも仕事に対して理想もなく、やるべきことを淡々とやっていくため、案外続く、というのはあるだろう。やっていくうちに面白さを見つけていく、というのもこのタイプである。

しかし、「退職せずに長く勤める」という観点からいくとこの後者でも成功のように見えるのだが、やはりそういう人では「これまでにない新しいものを生み出していく」領域にはなかなか到達できない。新卒で入ったのに、20年近く勤めてまだ主任止まり、という人もいる。なので、このタイプがベストかというと、また違うということはある。

この手の論理を突き詰めていくと、「理想があるよりは理想がないほうがいい、置かれた場所で咲けばいい」という結論になりがちだが、それだとあまりにもつまらないし、本質ではないような気がする。それだと、どんな仕事を選んでも同じだ、と言っているように感じられるからだ。

「天職」とはなんだろうか? 「天職」に出会うためにはどうすればいいのだろうか?

「天職」をテーマに書かれた下記のnoteを読んだ。

著者は、エッセイコミックなどをnoteに描かれている方である。漫画が可愛らしくて面白いので、定期的にチェックしている。

「天職」のひとつの定義として、「幸せを感じる瞬間を実感すること」「普通の人がいやだと思うことがいやだと思わないこと」という視点は新鮮で面白い。確かにそうかもしれない。

少し前に「ブラック企業」という言葉がもっと一般的だった頃は、たとえば某飲食チェーンの会長が「店の営業中にものを食べるなんてありえない、せいぜい水を飲むぐらい」とか「ご飯を食べなくても感謝があれば生きていける」みたいな発言をして、徹底的に叩かれたりしていたけれど、ちょっとそれは極端に振りすぎているような気がする。

この言葉が飲食チェーンのスタッフに向けられたから炎上したのであって、例えばイタリアにあるミシュラン星つきのレストランで、オーナーが発した言葉だったとしたらどうだろう。それを言われる側も、受け取り方は違うのではないだろうか。

アニメーターの業界も、時給換算すれば最低賃金を下回るような値段で働いていると言われるけれど、それでもその仕事がしたい! という気持ちで働いているわけで、それを否定する材料はどこにもない(もちろん、業界として労働環境をよくする努力は必要ではあるが)。

好きなことをやっていたら、そもそもお金のことなんて気にならなくなる、と言っている人の気持ちもよくわかる。それは実際にそのとおりなのだ。子育てだって親孝行だって、大変だけど、お金をもらえるからやっているわけではないわけで。

なんでも「幸せと報酬を結びつける」のは、現代の価値観がちょっと違うんじゃないか、と思う。「金銭的には別に報酬が高くなくても、それをやることが好きで、苦痛に感じない」というそれぞれの「居場所」みたいなものを、みんながそれぞれ見つけられる、というのが一番幸せな気がしている。それが一番頑張れるから、というのもある。

時給3000円だけどかなりの精神的苦痛を伴うものと、時給800円だけど苦痛を感じず、無報酬でもそれのための時間が割ける、というのなら、どっちを選ぶか? という話だと思う。

精神的な苦痛を伴う仕事は、おそらく長くは続けられないだろう。仕事というのは毎日、何十年も続けていくものだからだ。

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