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初任給30万円と「豊かさ」

少し前、ユニクロの初任給が30万円になったという報道がなされ、ネットでは少し話題になっていた。

初任給が30万円。これは手取りではなく総支給額ということなので、実際のところはそこまでたいした金額ではない。しかし、初任給としては確かに水準よりは高いのかもしれない。

企業で働くうえで重要なのは初任給の額面ではなく、その後「どういう仕事ができるか」にかかっていると思うのだが、そこについては主旨から外れるので言及しない。

ポイントは、なぜか日本では、どういう大学を出てどういう会社に入ろうが、初任給はほぼ横並びで同じだ、ということだ。

これに対してはいろんな意見がある。その中でも目についたのは、「ユニクロの給料が高くなったのがすごいのではなく、そんなことが話題になること自体がすごい」、という意見だ。要は、初任給が30万ぽっちで大騒ぎする日本が貧乏すぎるんじゃないか、ということである。

給料の話でよく引き合いに出されるのが欧米、特にアメリカである。アメリカでは、実力主義社会という毛色が強いので、有名大学を出て、高い学位を持っている学生には、高額の給料が支払われる。

サンフランシスコのシリコンバレーだと、大学を出たてでも年収で10万ドルを超える人も少なくないらしい。

いまは円安なので、1ドル=130円だとすると、1300万円ということになり、確かにそれはすごい、となる。

しかし、アメリカ、特にシリコンバレー周辺は物価が桁違いに高い。特に家賃は、ワンルームでも日本円にして15万以上するというし、少し外食すると2000円近くする、と言う話も聞く。

確かに初任給で1300万もらえるのはありがたいが、日本と同じ勢いでモノを買ったり食べたりしていると、あっという間にお金がなくなってしまうだろう。

日本だと、500円あれば結構おいしいものが食べられるし、1000円出せば選択肢がかなり広がる。インバウンドで、外国からきた人がまず最初にびっくりするのが、「こんなに安く、おいしいものが食べられるのか」ということらしい。

これが「豊か」かどうかは、また議論が分かれるところだろう。単に物価が安いから住みやすい、というだけでは、発展途上国に住むのでも似たようなことが言えるからだ。しかし、インフラなどが整っていない途上国と違い、日本は世界でもトップクラスに生活インフラが整っている。こうやって考えると、かなり住みやすい、いいところなんじゃないか、と思えてくる。

個人的には、普通においしく飲める水が水道から出てくる、というのがかなり嬉しい。僕は日中は基本的に水を飲むが、水道水である。東京の三鷹というところに住んでいるのだが、水源が奥多摩の地下水で、結構おいしい水が水道から出てくる。こういうのも、土地が豊かだからなのかな、という感じがしている。

アメリカ、中国などに住んだことがあるが、水道水がそのまま飲める地域は少ない。それだけでもだいぶありがたい、と感じる。中国の上海に住んでいたときは、大量のミネラルウォーターをしょっちゅう買う必要があり、非常に大変だった。

あと、治安がいいのも日本のいいところだ。ニュースを見ていると物騒な事件が目に付くが、逆にいうとそれは珍しいからニュースになっているのだ。諸外国と比較すると、まだまだ日本は安全な国だなと感じる。そういうところにも見えないコストというのはかかっているのだろう。

生活の実感からしても、「貧しい国」だという感覚はほぼない。海外に長く行って、帰国したときに感動するのは、まずコンビニの品揃えの豊富さと美味しさだ。これが豊かでなくてなんなのだろう、と思う。

日本は貧乏だ、と言っている人は、どういう生活を望んでいるのだろうか? たとえ年収がどれだけあがっても、物価が高くて治安も悪いようなところにはあまり住みたくない、というのが正直なところである。

冒頭のユニクロの初任給に話を戻すと、「日本で暮らすのなら」、額面で30万円も給料がもらえれば、日本では問題なく暮らせるだろうし、それに満たなかったとしても、そこまでの不自由はないのでは、と思う。どこで暮らすかによって、そのお金の価値、見え方というのは変わってくるのだろう。

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