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山と草、そして藁、2ちゃんねる

江戸時代にもスラングがあったらしい。

語尾に「山」をつけるのが流行した時期があったそうだ。「ありがた山」とか。

落語とかで「ありがた山のとんびがらす」みたいな言い回しがあるが、あの「山」に特に意味はない。いまでも、なんか女子高生とか普通に使ってそうな言い回しである。
 
2000年代からインターネットをやっているので、ネットスラングにはそれなりに詳しいほうである。当時は、匿名掲示板サイトである「2ちゃんねる」が全盛だったので、けっこうな割合でネットに張り付いていた(電話回線で接続するような時代からインターネットをやっている)。

2000年代の2ちゃんねるを代表するものといえば、なんといっても「電車男」だろう。もしかしたらいまの若い人は知らないかもしれない(考えてみればおそろしいことだが、いま20歳の人は、2000年に生まれたのだ。2ちゃんすら知らない、という人もいるのでは)。

電車男とは、2ちゃんねるで生まれた、ひとつの物語である。いちおう実話ということになっているが、その後のあまりのブームの高まりによって、検証班が考察を重ねたりして、真偽のほどはよくわからないのだが、とにかく、2ちゃんねるで生まれたことに変わりはない。

どういうものなのかを簡単に説明すると、ある一人の(オタクの)青年が電車で女性を助けたことをきっかけに、2ちゃんねるでスレッドを立ち上げ、2ちゃんねるの住人に応援されたり冷やかされたりしながら女性とのデートを重ね、ついに恋愛が成就するまでになった、という物語である。

当時は僕も高校生ぐらいだったので、けっこうハマって、2ちゃんねるでのやりとりが書籍化されたりしたので買ったりしていた(今は手元にないが)。

まあ、波乱に満ちている……ように見えて、極めて順調に交際までこぎつけているので、恋愛ストーリーとしてはけっこう陳腐な部類に入るのかもしれないが、それでも面白かった。ストーリーそのものよりも、2ちゃんの住人の盛り上がりとかが面白かったのかもしれない。
 
当時は、2ちゃんねるが全盛だったというのもあるが、「2ちゃん用語」というのがけっこうな種類があった。

ちょっと読んだだけでは、何を言っているのかわからないものも多い。「希望」を「キボンヌ」とか言うぐらいならまだわかるが、「ヤツ」を指す言葉として「香具師」と言ったり、「俺」のことを「漏れ」と言ったりするのだが、本当に初見だとよくわからない(知らない、という人は読み飛ばしてもらって結構です)。
 
携帯メールが普及しはじめたということもあり、「(笑)」が登場したのがその頃だ。

普通の人が使っている用語をそのまま使わないというのが2ちゃんねるの流儀なので、当時の住人は「藁」をよく好んで使っていた。「ワラ」で変換したのだろう。

その後、2ちゃんねるが少しずつ衰退するなかで、2010年代にニコニコ動画が台頭してくると、よりフランクに「笑」に変わって「w」を使う風習が生まれた(これは、いまでも使うと思う)。

言語学(?)的にはどういう解釈かはわからないが、僕は「(笑)」から「藁」に変化し、その後「w」になったのだと解釈している。

そして、最近は、「草」というのに変わってきた。コメントとかで、「草生える」とか「それは草」とか普通に言うようになった。

藁、草と変化してきているのだが、徹底して「自然にあるものを指す言葉」というのがなんだか興味深いな、と。江戸時代のネット(?)スラングは「山」だったというが、現代においても、藁とか草とか、基本的には自然物をスラングに使っているのだ! 

一見すると日本の風習や文化には背を向けているかに見えるインターネットにおいても、日本人は自然を愛でる国民性なのかなあ、と思った次第である。
 
また次のスラングに移行するタイミングなんですかね。そろそろ「山」に回帰するタイミングでもいいのでは、と少し思っている。
 
ここまで読んでくれて、ありがた山のとんびがらす。大草原不可避w

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