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自分が解釈したものしか記憶には残らない

QOLを高めるために、毎週映画を見ることを続けている。見る映画のセレクトは奥さんと毎週交代するようにしていて、基本的に互いのセレクトに口は出さない。これにより、お互いの好みがもろに反映されることになり、自分の趣味趣向じゃない映画を見ることができるシステムになっている。

NetflixやAmazon Primeなどのサブスクサービスを活用しているのだが、サブスクにないものであってもネット上でレンタルして見ている。

どちらかといえば、最近の流行っている映画よりは、名作と呼ばれるものが多い。映画の名作というのは全くあなどれず、「古典」と呼ばれるものであっても、いま見るとかなり斬新な内容だったりする。

先日、「雨に唄えば」というミュージカルを見たのだが、想定と全く違っており、かなりアクロバットでぶっとんだ内容だった。

見たら唖然とするので、非常におすすめである。

名作といえば、史上最高の映画監督と名高いスタンリー・キューブリック監督の作品を見るようにしている。ちょっと前に「2001年宇宙の旅」を見て、先日、「フルメタル・ジャケット」を見た。

「時計仕掛けのオレンジ」や「博士の異常な愛情」といった名作もそのうち鑑賞する予定である。

「2001年宇宙の旅」はわりとよく耳にするタイトルだったので、どんな内容かと思っていたのだが、これまで僕が見たすべての映画の中で一番難解だった。

あまりに難解な内容に、見た直後は奥さんと「?」の状態となり、全く消化できなかった。YouTubeで解説動画を見て、時間が経って、なんとなく解釈できたような感じがする……、という感じである。

フルメタル・ジャケットは大学生ぐらいの頃(15年前ぐらい)に見たことがあったので、初見ではなかったのだが、忘れている箇所が多く、特に後半はほとんど覚えていなかった。

フルメタル・ジャケットは「2001年」に比べるとわかりやすい映画ではあるのだが、自分の予想というか、自分の解釈に当てはまりづらい内容だったため、消化不良を起こしており、忘れている箇所が多々あった。

少しそれについて書いてみたい。

同映画は、ベトナム戦争がテーマである。構成が前半と後半に分かれており、前半は新兵である主人公らが海兵隊のリクルート・トレーニングでハートマン軍曹という鬼軍曹に徹底的にしごかれる、という内容だ。後半は、リクルート・トレーニングを卒業した主人公らが、海兵隊員としてベトナムの戦場に送り込まれる、という内容である。

消化不良を起こしていた要因は、その構成にある。前半は、普通の民間人がリクルート・トレーニングを通じて、一人前の兵隊に訓練されるのが主旨である。

主人公はジョーカーというあだ名の男なのだが、同期に明らかに劣等生である「微笑みデブ」というあだ名の新兵がおり、いきがかり上、彼の面倒をみる羽目になってしまう。彼は全く訓練についていけないため、周囲のフラストレーションは溜まっていく。しかし、射撃の才能があることがわかり、次第に優秀な兵隊へと鍛え上げられていく。

……という流れが前半なので、後半はいよいよ戦場に行くということで、前半までの血のにじむような努力が実り、主人公らの活躍が見れるのでは、と期待する。

少年ジャンプ的な世界観では、特訓を経てからパワーアップした主人公らが暴れるシーンというのがひとつの見せ場であり、当然そういうものを想定してしまう。

しかし、本編の後半で、ベトナムでの戦闘シーンはあるのだが、なんとなく気の抜けた、緊張感のないシーンが続く。戦地にいる兵隊たちも、「戦争の意義」なんて誰も考えていないし、「ここに来て、なんとなく戦場にいるような感じがする」というぼんやりした感想しか持っていない。つまり、戦争の意味や正義に燃えている、という感じではなく、ただのぼんやりした殺人者、という感じなのである。

戦闘はあるし、死体も出てくるのだが、どことなく、現実感がないのである。そもそも、主人公であるジョーカーは海兵隊員ではあるのだが、報道関連の部署に配属されるため、戦闘は直接的には彼の任務ではなくなる。その仕事でも、戦意高揚のため、いい加減な記事を書くことを求められる。

前半のリクルート・トレーニングでは、ハートマン軍曹によってしごかれるのだが、下ネタ満載の罵詈雑言によって罵倒され続け、下ネタ満載の歌なども訓練中に歌わされる。最初は違和感があるのだが、まあ軍隊ってこういうところなのかな、と普通に見てしまう。

しかし、あとでYouTubeで映画解説などをしている人の動画を見てみたところ、これは兵隊たちを「バカにする」ために洗脳しているのだ、ということだった。第二次世界大戦中、米兵が「発砲した」のは全体の2割程度に過ぎなかった、というデータがあるようだ。

やはり、普通の市民が発砲して人間を殺す、というのは心理的なハードルが相当高いようで、感覚を「麻痺」させる必要がある、と。ハートマン軍曹による徹底的な洗脳により、何も考えずに人を殺せる兵隊が出来上がる、と。

キューブリック描きたかったのはそこなのだろう。もちろん、ここは「前提」であり、そこからさらに掘り下げていくこともできるのだろうが。自分レベルでは、この程度の解釈が一番理解しやすかった。

つまり、キューブリックは皮肉をこめて、批判的にこの映画を作っており、ただ単に「反戦映画」というのともまたわけが違う。しかし、なんの予備知識もなくこの映画を見るとわけがわからないため、消化不良を起こしてしまっていたのだろう。

消化不良を起こすと、意味が理解できないので、記憶に残らない。そういう傾向はどうやらあるようだ。

人間は、自分の理解できるものしか記憶に残らない。物語をたくさん「消費」していくと、そういった「お約束」が自分の中に溜まっていく。

しかし、そこから外れているものをどう解釈し、どう理解するか。お約束だけで構成されている最近の映画を見ているだけでは、なかなかわかりにくいところではある。


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