見出し画像

自分ひとりですべてをやろうとすると……

週刊少年ジャンプで長期休載していたハンターハンターが、今週、突然連載再開された。

実に3年以上ぶりの掲載だったのだが、まるで何事もなかったかのように、「先週も掲載してましたよ?」みたいな顔をして、いきなり難解な展開の続きが始まったので、話についていけない人も多かったのではないだろうか。

僕も全然話についていけないと思ったら、最新話までの直近の部分はコミックスに収録されていなかったらしい。11月に入ってから、その部分を収録したコミックスが発売されると言うことなので、わからなくて当然……、と思った。3年前に一度だけ読んだの難解な話の続きなど誰か覚えているだろうか。ここはちょっと、編集部側の手際の悪さを感じる。

ハンターハンターは週刊少年ジャンプで連載されていながら、非常に休載が多いことで知られている。なぜ休載が多いのかというと、体調不良が原因とされている。漫画業界では「一身上の都合」ぐらい汎用性のある、ほぼ何も言っていないに等しい、休載理由である。

あまりにも休載が多いが、それでも最新話が読みたい一心で、ネットでは「冨樫仕事しろ」と作者である冨樫義博に対しての呼びかけるのがひとつのネタみたいになっている。しかし、富樫先生は本当に腰を悪くしていて、座ったまま原稿書くことがほぼ不可能、仰向けになってお腹のあたりに画板をあてがってその上で書く、みたいなことをしないと絵が描けないような状態になっているらしい。なので、体調が悪いというのは少なくとも間違いないようだ。

腰が悪くて絵が描けない状況なら、そもそも作画を他人に任せて、話だけ考えればいいのでは、という対応も当然思いつくのだが、それはしたくないらしい。過去作品の「幽☆遊☆白書」のコラムの中で語られていたことなのだが、普段の連載の状態でも、アシスタントに作画の一部を任せることに対してものすごくストレスを感じているようだ。細部の部分で、自分のイメージと異なったものができあがるからだろう。

なので、漫画を描く上で溜まるストレスは自分ひとりで描くことによって解消できる、という考え方を持っているらしい。それぐらいのこだわりがあることを思えば、これだけの長期休載をしているというのも納得……と言えるかもしれない。

一見すると、「ここまでこだわりをもって仕事をしているのか」と尊敬と驚愕の念を抱くのだが、考えてみると、結構自分もこういうところがあるので、気持ちはわかるな、と思ってしまう。

仕事というのはどんな仕事であれ、分業が基本である。たったひとりですべてが完結する仕事というのは、現代社会ではほとんどないだろう。しかし、他人に何かを任せるということは、その部分の仕上がりに対しては、自分のイメージからはずれていても、妥協しなければならない、ということになってしまう。

どれだけ腕の立つ人であったとしても、自分の思い描いたイメージ通りに仕事をしてくれるとは限らない。だから、これについてはほぼ確実に言えると思う。なので、それに対して納得をしていくのが今のビジネスパーソンなのではないかと思う。



僕の仕事は漫画制作ほどクリエイティブな仕事ではないが、それでもほかのスタッフに何かを任せた結果、その尻拭いをしなければならないような場面になったとき、最初から全部ひとりでやっていればこんなことにならなかったのに……、と思うことがある。

しかしこれは間違いで、いかにして他人に働いてもらうかというのが仕事の本質なので、多少のストレスを溜めながらでも他人に仕事をお願いしてやってもらう方が正解なのである。すべてを他人に任せずひとりでやる、というこだわりは重要だが、仕事のすべてをそうするわけにはいかない。それこそ、冨樫義博のように、それが許容される環境に限られる。



今では人気漫画の作家はほとんどアシスタントを入れて制作していると思うので、こういう妥協についてはある程度慣れっこになっているか、それともアシスタントが熟練になってある種の境地に達したかのどちらかだろう。

その体制が確立するまでの過程では何らかの葛藤があったことも絶対にあるはずだ。逆に言うと、「アシスタントに任せられる体制」をつくることも、クリエイティブのひとつといえるかもしれない。

サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。