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運8割・実力2割

父は結構若い頃から株取引をやっているらしい。会社員をリタイアした今でも続けているようだ。定年退職後、マイクロ法人を立ち上げ、節税対策をしている。その事業として登記されているもののうちのひとつとして、株取引があるらしい。

儲かってるかどうかはわからないが、あまり損をしてるような感じもしない。少数ではあるが、友人で株をやっている人もいる。いずれにしても、あまり目立った儲け方はしていないようだ。

僕はあまり興味がないということもあり、株式取引はやっていない。一番大きな理由としては、自分が勝つ道理が見当たらない、というところにある。企業のリサーチをしたり、市場分析をすることによって勝率を上げることが可能なのが株の世界だが、自分が他のトレーダーよりもたくさんの情報を収集したり、レベルの高い分析ができるという自信がないので、とりあえずは手を出していないのである。

といっても全く経験しないのと少しやってみるのとでは人生経験が変わってくるので、小額であればやるかもしれないし、あるいは積み立てのように毎月少額をそこに割り当てるみたいな形でやる可能性はゼロではない。投資信託や、インデックスファンドのようなものならやるべきかな、とも思う。

以前、株取引を生業にしている人の本を読んだことがある。いわゆる株取引のプロである。

プロと素人の違いは何か。「プロは株で儲けている人」で、「素人は株で損をしている人」という定義は間違っている。プロでも損をすることはあるし、素人でも儲けることはある。

そこで印象的だったのが、株のプロで「勝つときの要素の割合」としては、「運8割・実力2割」だというのだ。つまり、株が上がるか下がるかは究極的には誰にもわからない世界だから、大半を「運」が占めている。しかし、情報収集や分析によって得られる知見によって左右できる割合が2割ほどあり、この2割がプロたらしめている所以だと言うのである。

そして、この2割のために、株のプロは自分の時間の全てを注ぎ込んでいる。

例えばスポーツの世界を見てみる。プロ野球選手でも、トップ選手と平均的な選手の差でも、目を見張るほどの差はない。いま調べてみると、シーズン打率の記録は、1986年にバースという選手によって打ち立てられた3割8分9厘とのことである。一方、2021年度の平均的な選手の打率は2割5分程度ということだ。

伝説的に活躍した選手と、平均的な選手のあいだの打率は13%程度の差だ、ということがわかる(もちろん、状況が違うので単純な比較はできないが、あくまで目安として)。

短期的な結果であれば、ほぼ運が左右する。しかし、長期的な数字を見ると、誤差みたいな勝率の差がトップ選手と平均的な選手を明確に分かつのだろう。

スポーツは現実世界よりは運の要素が絡まないから、現実世界の事象の大半はこれよりも運要素が強い、ということになる。仕事で成功するかどうかと言うのは大半が運だと思う。実力のある人は、その確率を少しだけ上げることができるのだろう。

これは株取引とは関係ないのだが、昔ある医者のドキュメンタリーを見ていた時も印象的なことを言っていた。曰く、誰にでも治すことができる患者はいるし、誰にも治すことのできない患者もいる。しかし世界で自分だけしか治すことのできない患者と言うのも、実力を高めていけば、いることになる。

「治せない領域」から「治すことができる領域」を広げていくのが医者としての実力を高めていくことなのだ、と言っていた。なるほど、と納得したものだ。「神の手」と言われる名医でも、救うことのできない患者はいる。しかし、「神の手でなければ救えない」患者がいるのもまた事実だというのだ。

株取引の話に戻すと、「運が8割」なのだから、一定の知識があればそこまでリサーチをしなくても勝てる理屈があるといえばあるかもしれない。運がよければ儲かるのだろう。でも少しでも勝率を高めるためにはかなりの自分の時間をそこに注ぎ込まなければならないわけで、それをする気になれないというのが実際のところである。

もっとも、株の世界は、一定のパイを奪い合うゼロサムゲームではない。長期的な保有を目的として、資産の分割という観点でやるのはありかもな、とは思い始めている。

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