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賢者が歴史から学ぶのは本当か?

物事を考えるとき、アナロジー(類比)で考える人は多いと思う。

アナロジー思考とは、つまり、目の前の現象を何か別のものに「たとえて」考える、ということだ。新しい概念を習得するとき、ゼロベースで理解するよりも、自分がすでに知っている別の概念にたとえることで、理解を早めることはよくあることだろう。

「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という言葉があるが、あれも「経験」というのは個人の非常に狭い観測範囲から学びとろうとしている姿勢に対して、「歴史」はもっと広い範囲、かつ広い時間軸から学ぶことなので良い、ということを言っているのだと思うのだけれど、結局、アナロジー思考だという点では、同一のものであると思う。
 
ちょっと前に、テスラCEOのイーロン・マスクが講演している動画をみた。インタビュイーとの対談形式の動画だったのだけれど、イーロン・マスクに対しても遠慮することなくグイグイいくタイプのインタビュイーだった(いかにもアメリカ的だ)。
 
話は、イーロン・マスクが、テスラにとどまらず、スペースXなど、複数の画期的なプロジェクトを同時進行でこなし、しかも実績を出していることに対して、「どうしてそういうことができるのか?」と質問を投げかけていた。

イーロン・マスクは、「みなさんが期待しているような答えは持っていません。しかし、たくさん働いてはいます」とやや謙虚に返答していた。まあ、たくさん働いている人は世の中にたくさんいるとは思うのだが、彼ほどに実績をあげている人は他にいないだろう。

司会者は「あなたは各プロジェクトをシステムレベルで設計していて、それに対してとても自信をもっているので、とんでもないリスクを背負うことができるのでは?」という仮説をぶつけていた。

それに対してイーロンマスクは、「確かに、物理学的なアプローチをとることは多いです」と答えていた。


 
僕も含め、普通の人は、アナロジーによる思考が、思考のメインとなるだろう。しかし、イーロン・マスクは必ずしもそうではない、ということがこの対談によってわかった。

彼は、過去の歴史や事例などを考えるのではなく、物理学のアプローチによって、ゼロベースでプロジェクトを組み立てていたのだ。アナロジーによる思考を大きく飛び越えたプロジェクトを推進できるのはそのためだ。

ゼロベースで、物理学的にアプローチをする。これこそ本当の意味でのエンジニアリングだといえるだろう。
 
「理想はそうだけど、現実はなかなかそうはいかない」ということが口ぐせになっている人は多いと思う。しかし、理想が理想である限り、なんらかのアプローチでそこに近づいていくことはできる。

もちろん、それを現実にするためには、優秀な仲間が必要だし、市場がそれを受け入れるかどうか、ビジネスとして成立するか、という賭けもあるだろう。

しかし、物理学的なレベルで検討し、根拠があれば、それに対して自信を深めることができ、大きなリスクをとることができるはずだ。


 
アナロジー思考はとても大事な考え方ではあるが、本当に革新的なことを生み出すためには、それだけはどうも不十分らしい、ということがわかった。

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