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寄り道するアルゴリズム

小さい頃は、自家用車にカーナビがついていなかったように思う。父は方向感覚が抜群によかったので、家族でどこか出かけるときも迷っている様子はなかったが、母は知らない場所に行く時はけっこう迷っていたように記憶している。

だから、知らない場所に運転していくのをほとんどみたことがなかった。親戚の家が浜松にあるのだけれど、そこに行った時も、道がよくわからなくて、サービスエリアで地図をひっくり返してしらべていた記憶がある。もっとも、僕がまだ本当に小さいときの話ではあるが。
 
いまは車にカーナビが搭載されていることなんて当たり前だろう。仮に標準装備されていなくても、後付けで簡単につけることができるし、なんならスマホのアプリでも十分に対応できる。専用のアプリを使う必要すらなく、iPhoneならば、標準装備されている「マップ」で十分だ。

地図が最新の状態に常にアップデートされているので、下手なカーナビソフトよりも優秀だったりする。
 
今は、「道に迷う」ということがほとんどなくなった、といえるだろう。電車の乗り換えだって、東京の路線は複雑怪奇だけれど、スマホのアプリを使えば、たちどころに正解に行き当たる。便利な時代になったものだ。
 
僕も、どこか知らない場所へ行く必要があるとき、徒歩であってもスマホのマップを見ることが多い。簡単に最短ルートを提示してくれるから、自分で模索する必要なんてない。しかし、最短ルートというのは確かに便利ではあるけれど、日々似たような道しか通らないから、けっこうつまらないな、と思っていた。


 
そんな折、偶然面白いアプリを見つけた。「散歩ルート計測生成機」というのだけれど、「寄り道ルート」を考案してくれるのだ。

たとえば、最短距離で1キロの道のりであっても、「5キロ」などと指定すると、5キロで到着するように、迂回したルートを考えてくれる。

「散歩ルート」を新しく提案することが目的のアプリなので、もちろん自宅から自宅に戻ってくるルートも作れる。しかし、目的地を行きたい場所に設定すれば、思いっきり「遠回り」ができるわけだ。

最近、しょっちゅう図書館に行っているのだけれど、そろそろ最短ルートで行くのは飽きてきたな、と感じている。まだまだ近所には知らない道がたくさんあるのに、ほとんど開拓ができていない。

試しに、最短距離の3倍ぐらいの距離を入力すると、おそろしく遠回りなルートが提示されたので、面白半分で、完全にその通りに行ってみた。

すると、「こんなところにこんな店があったのか」や、「この道ってここに出るのか!」などと、発見の連続だった。完全にランダムだと同じ場所をグルグルするようなものになってしまうと思うのだけれど、なかなかそうならないようにうまく設計されている。これは面白いアプリを手に入れたな、と思った。
 

最短ルートというのはひとつしかない。しかし、寄り道が許されるならば、いろんなルートが考えられる。距離を伸ばしていけば、組み合わせは無数にある。

そうやって、「寄り道」をしながら、生活を楽しむのが一番なのかな、と。

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