一日に「何回」寝てますか?

速筆かつ多作で知られる作家の西尾維新は、筆の速さの秘訣として、「2時間の睡眠を一日に4回とること」だと言っているらしい。「朝になると、寝る前にあった問題は解決しているので、一日に何回朝を作れるかが大事」なのだとか。

寝ているあいだに、詰まっているアイデアの解決策を思いつく、ということだろう。西尾維新は小説を書く際に、プロットやメモなどを作らないことで有名なので、きっと書いていくうちに頻繁に行き詰まるのだと思われる。

しかし、そこでの解決方法として「昼寝」をとるのではなく、ちゃんとした「睡眠」を計画的にとるのは解決策として面白い。

そういえば、西尾維新が敬愛する作家の森博嗣も、「分割睡眠」というのを実践していた、と昔のブログで書いていた。森博嗣はデビューしたときは、名古屋大学工学部の先生だったのだが、普通に研究者としてフルタイムの仕事をしながら、夜にバイトのつもりで小説を書いていたのだという。

もっとも、森博嗣の場合は日中は大学の仕事があるので、それを終えてからいったん睡眠をとり、夜中に起きて小説を書き、また寝る、という生活だったという。やはり、大学の仕事を終えてからすぐでは、頭がまわらないのだろうか。

いずれも、「寝ないで原稿を缶詰で執筆する」みたいな、典型的にイメージされる作家のタイプとは異なるような気がする。もちろん人にもよるだろうが、最近の作家はよく寝るのだろうか。

西尾維新も、「2時間睡眠を4回とる」と聞くと狂っているように見えるが、実際のところは一日あたり8時間寝ているわけで、あんがい健康的なのかもしれない。

漫画家はいまだに徹夜しているイメージがあるが、絵を描くという物理的な作業があるので、これは仕方がないことなのだろうか。しかし、漫画家の東村アキコと浦沢直樹が、「ネーム中(ストーリーを考える作業)は眠くなる」と言っていて、実際に机に突っ伏して寝ることもあるらしい。やはりそういうものなのだろうか。

以前も書いたが、睡眠のメカニズムは謎だらけである。ひとつ言えるのは、すべての動物は寝るということ。そして、寝ないと死ぬ、ということである。

睡眠という行為は、意識をシャットダウンして完全に無防備な状態になるので、生存のうえでは相当不利だと思われるのだが、実際にはどんな生き物でも寝る必要があるのは興味深い。生命の仕組みの根源に関わるものがそこにある、ということなのだろう。

そして、睡眠不足だと大幅にパフォーマンスが落ち、最終的には死んでしまう、というのも共通している。本当は、睡眠中にいったい何が行われているのだろうか。起きた時にあまり覚えていないだけで、実はものすごいことが行われているのかもしれない。

自分は昼寝をよくするタイプである。いまは在宅勤務が多いので、昼休憩中に、ほぼ確実に昼寝をする。自宅なので、ベッドで寝られるのはありがたい。アイマスクと耳栓をつけて、集中的に15分ほど寝る。これをやると、驚くほど生産性が高くなる。

頭を抱えてしまうようなややこしい問題をぶちこんでから寝ると、起きた頃には整理されて、解決策を思いつく、というのは自分も経験がある。また、記憶の定着は寝ているあいだに行われるので、受験生は、就寝前の時間を暗記に充てて、寝ているあいだに記憶してしまおう、というのもよく言われることだ。脳科学者の池谷裕二は、寝る前の時間に、難解な論文を読むようにしているのだという。なかなか面白い。

睡眠は謎だらけである。西尾維新の場合はちょっと極端に見えるが、作家という職業柄、そういうやり方もありなのだろう。忙しいからといって睡眠時間を削っていき、錯乱し、寿命を縮めていくよりは、よっぽどましだと思われる。

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