見出し画像

経験値にならない経験

ふとしたきっかけで、今年2月から将棋をはじめた。はじめたからには強くなりたいし、「ある程度将棋が指せる」と堂々と言えるレベルである「初段」を目指して、日々鍛錬を重ねている。

将棋の練習方法はシンプルで、まず詰将棋を決めた量だけ解き、あとはひたすら対局している。もちろん、対面で対局しているわけではなく、すべてネット経由である。

なんとも不思議なのが、そこまで強くないのに、何千局も指している人の存在である。自分はまだ将棋ウォーズというアプリでは700局弱しか指していないのだが、同じぐらいのクラスで8000局とか10000局とか、そういうレベルの量を指している人もいる。

将棋というのは指せば指すほど強くなるものだけれど、そういう人たちは自分よりもはるかに指し込んでいるにも関わらず、まだ自分と同じクラスなのである。

だが、指しているとなんとなくわかることがある。そういう人は「ハメ技」が得意なのだ。実際のところ、将棋にハメ技はないのだが(そんなものがあったらプロでも採用している)、初心者を引っかけることができる小技的なものはある。

それをやられてしまうと、あっという間に形勢が崩れて負けてしまうのだけれど、一度それを研究すると、次からは回避できたりする。つまり、ある程度以上の実力の人には効かないのだが、初心者は狩れるという、そういうタイプの攻め方なのである。しかし、相手は人間なので、本当はそういうものに引っかからない人であっても、うっかり受け間違えて引っかかってしまうことはある。

こういう「ハメ手」は一度身についてしまうと癖になってしまうので、自分は気をつけている。初心者狩りの技は、一種の麻薬だ。それは本来の実力ではないのに、実力だと勘違いしてしまう。本当に実力をつけるためには、そういった技は封印してやらなければならない。

そういうことを回避するために、コンピュータと対局することを最近は取り組んでいる。妻の実家から、立派な将棋盤を譲っていただいたので、それを使って実際に駒を動かしながら、コンピュータ相手と対局している(コンピュータの手番のときは、自分で駒を動かしている)。

コンピュータは強さが調整できるので、自分とちょうどいいぐらいの強さのモードにして戦っている。コンピュータのいいところは、決して感情的にならず、決してミスらないということだ。人間なら感情的になって見落としてしまうような技をかけても、きわめて冷静に対応してくる。

しかし、強さを調整してあるので、ときどき変な手を指す。変な手を指したタイミングで、それを咎めるような手を指せると、勝利に近づく。隙が生まれた瞬間を見逃さない、という訓練ができるのだ。

なにより、こちらが何十分考えてもイヤな顔ひとつしない(そもそも顔がない)。

なんだか接待されているというか、「鍛えさせてもらっている」ような感じだが、うまいレベルを見極めると、ちょうどいい感じで対局できるのだ。対人間だと、つい感情的になって、「ハメ技を使ってでも勝ちたい」という気持ちが湧いてくるときがある。

コンピュータ相手には、ハメ技は一切通用しないので、冷静に「いい手」指さなければならないのである。

サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。