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なぜ営業は調子のいいことを言うやつしかいないのか?

ちょっと前に部署異動があったのでいまは違うのだが、一年ほど営業の仕事をしていた。

これまでのキャリアでは新規事業などを担当することが多く、業務の一環として営業の仕事はしたことがあるのだが、専業で営業をするのはこれがはじめてだ。前職を含めても、営業だけの仕事をしていたことはない。しかし、まあやればできるもんだ、と思った。

人と話すのはそれほど苦手なほうではないので、ある意味では向いているのかもしれないが、四六時中人と話す必要がある仕事は向いていないような気がする。営業は、もちろん業種によっても異なるだろうが、「質より量」が求められる場面も多いので、こなしていくこと自体が結構大変だったりする。

一方で、とりあえず動いてさえいればある程度の成果は出るものなので、その点は楽だ、というような考え方もできる。しかし、一年ほどその仕事をしてみて、やはりある領域以上に踏み込むとそれなりに「深み」を感じることはできる。色々と発見があったので、少しそれについて書いてみたい。

営業をしていると、いろいろなトラブルが発生することがある。しかし、そのトラブルは、要するにコミュニケーションミス、関係者のあいだでの認識に齟齬があり、それが原因でトラブルに発展している、というケースが多い。

しかし、それはコミュニケーションが下手だとか、誰それが悪い、というケースだけでなく、わりと構造的に起きている問題もあるな、というのが自分の観察である。

一番わかりやすいトラブルが、営業が「わかりやすいメリット」だけを客先に伝えており、リスクやデメリットについての説明が不十分だったので、運用側でトラブルが起きる、というケースである。簡単にいうと、営業が調子のいいことばかり言って仕事をとってきたが、実際にふたを開けてみると問題が山積みでした、というケースだ。

こういうことがあると、「営業が適当なことを言いやがって」と社内での評判が悪くなり、嫌われたりするケースもある。しかし、これはある種は構造的に仕方がない部分があるな、と思うのである。

要するに、営業から運用側に案件が渡った段階で、コミュニケーションレベルが切り替わるのだが、それが原因で起きた問題だ、と思っている。つまり、最初の商談の段階で細かいデメリットやリスクの部分を事細かに説明していると合意には結びつかないので、そのあたりのコミュニケーションが難しいのだ。

いわゆる「できる営業」は、リスクやデメリットを正面切って伝えるのではなく、それが起きうる状況かどうかをヒアリングして、事前に先回りしてそれとなく伝えることができる人のような気がする。逆に、運用の人たちに営業をやらせても、このあたりの伝え方は難しいので、うまくいかないことも多いだろう。

このへんの解釈は、「地図の解像度」で例えてみるとわかりやすい。たとえば、企業のトップ同士で決まる話は非常に抽象的で、具体的なことは何も決まっていない、というケースが多い。これは、たとえば旅行で言うなら、「とりあえず大阪に旅行に行く」といったレベルのことを決めている段階だ。

大阪に行くことが決まれば、日程や、どういう交通手段で行くのか、行き先はどこか、といった具体的なレベルで物事を決めていく必要がある。いわゆる運用レベルというと、もっと細かいレベル、たとえば駐車場はどこにするか、待ち合わせ場所はどこにするか、といったレベルの調整なわけだ。

最初の段階でその解像度レベルのことを話していたら、要旨がわからなくなるだけだろう。つまり、意図的に省いている部分ともいえる。営業の話し合いは、トップ同士の話し合いよりは多少具体的だが、それでも運用と比較すると抽象的なレベルである。

営業の仕事は楽しいことばかりではないが、いろいろと勉強になったな、と思う。解像度のバランスについては、普遍的に言えることだと思うので、よくよく考えていきたい。

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