見出し画像

赤字事業だとモチベーションが湧かない?

以前からこのnoteでもたびたび引用しているのだが、僕の好きな漫画に「らーめん才遊記」「らーめん再遊記」(タイトルは違うが同シリーズ)というラーメン漫画がある。

この漫画のユニークなところは、単なるグルメ漫画ではなく、あくまで「ラーメン」に特化しているところと、作中で語られるビジネス哲学がいちいち素晴らしいところだ。

最近思い出して「確かにそうだよな」と思ったのは、とある社員がコンサルタントの仕事を引っ張ってきたエピソードだ。どう考えても勝算がなさそうな出店をしようとするクライアントに対して、とある社員が顧客にダメ出しをしてしまう。

それに対して社長の芹沢は、「やりたいと言う相手にやるなと言ってはならない」と諭す。コンサルタントは相手の予算の範囲内でベストをつくし、助力が足りなかった場合の責任も負うが、「やる」ことそのものに対するリスクはクライアント自身にとってもらうべきだ、と。

らーめん才遊記 (2)久部 緑郎、河合 単 (著)

もちろん、そのほうがコンサルフィーを取れるから、という理由もあるのだが、これはかなり仕事の本質を捉えているな、と思う。

以前ネットで見たブログで、自分の仕事に対してモチベーションが湧かない、と言う人がいた。いまやっている仕事は会社の事業としては赤字の事業なので、全体的に関係者のモチベーションも低く、どうもやる気が出ない、というのだ。

この意見自体は取るに足らないもので、たとえ会社的に赤字であったとしても給料はしっかりもらっているわけだから手を抜くなよ、と率直に思うのだが、「この仕事はやっても意味がないんじゃないか」みたいなことが気になって、やる気が出てこないらしい。

社会人になってからわかったことだが、会社の収支はドル箱の事業と赤字の事業で成り立っている。どの会社も、大儲けするメインの仕事が柱にあって、その事業が会社を支えている。

一方、あまり利益が出ない、もしくは赤字の事業も並行してやっている。儲かる事業だけやればものすごく儲かるのだが、それだと先細りしてしまうし、いつかは時代に取り残されてしまう。

わかりやすいのがネットテレビのAbemaを展開するサイバーエージェントで、Abemaは年間で数百億円の大赤字らしい。しかし、スマホゲーム事業やネット広告事業は非常に儲かっているので、それで収支は合う、という計算のようだ。

もしAbemaをせずに儲かる事業だけやっていれば、ものすごく利益率の高い優良企業だと思うのだが、いまはAbemaにガンガン投資をしているのだという。

Abemaの社員が赤字事業だからといって、モチベーションがあがらないかというと、そんなことはないだろう。少しでも事業として盛り上げていくように、日夜努力しているはずだ。世の中にはもっと先行きの見えない、赤字プロジェクトだってたくさんあると思うが、「与えられた予算と時間で、可能な限りの努力をする」ことが大事なのは変わらない。

儲かる花形事業に優秀な人材が割り振られるかというとそんなこともなくて、花形事業はすでにノウハウが蓄積されているわけだからあまりレベルの高くない人材が回していることが多い。優秀な人材は、むしろ立ち上げ期にある赤字事業をやる、と。

本当に優秀な人はそういった制約を楽しむ傾向にすらあると思う。豊富な資金、優秀な人材、潤沢なノウハウで出発するプロジェクトなんてない。足りないものをアイデアで補いつつ、手と足を使って成功へと導いていくのだ。

自分もどちらかというと新規事業にアサインされることが多いが、一切の制約なく、のびのびと新規事業が伸びていったことなどない。以前の会社は中小企業やベンチャー企業で、いまは大企業に属しているが、本質は変わらない。常に、限りある資源でやっていくしかないのだ。

そういった認識の違いが結果にも大きく出るんだろうな、と思う。赤字事業に投資して責任をとるのはトップであり、その下で働く人は、与えられた条件で成功を目指すゲームをやっていると思えばいいのだ。


サポート費用は、小説 エッセイの資料代に充てます。