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ロジ、意識してますか?

霞ヶ関の中の人が、官僚の生態を詳しく綴るnoteを読んでいた。その中で、官僚の人たちが使う「霞ヶ関用語」というのが出てきた。

元外交官の佐藤優氏などの著作でもわりと頻繁に登場するのだが、同じ「霞ヶ関用語」でも政治家が使うものと、官僚側が使う霞ヶ関では多少内容が違うようだ。

noteで紹介されていた用語のうち、「ロジ」という言葉が面白いな、と思った。
 
「この件のロジどうする?」「私ロジやっておきます」とか、そんなふうに使うらしい。なんのことかというと、ロジとはロジスティクス(Logistics)の略で、和訳すると「兵站(へいたん)」になる。なんのこっちゃ、と思われた方も多いに違いない。
 
兵站とは軍事用語で、調達などのことを指す。戦争をするときに、兵隊だけ前線に送り込んでも戦闘はできない。当然ながら武器はいるし、他にも戦闘用の装備が必要だ。もちろんそれだけでは不十分で、野営のためのキャンプや、塹壕を掘るための道具や、水・食糧、生活用品などなど、ありとあらゆる物資が必要になる。

兵隊を派遣することも当然必要なのだけれど、その兵隊をそこにそもそもどうやって投入するんですか? というのも考えなければならない。逆にいえば、ここにこれだけの兵力が必要で、ここに駐屯している兵隊を移動させるから、結果的にこれだけの物資が必要で、その調達はいついつまでにどこから持ってくるか、それに対する予算はどうなってるか、みたいなのを総合的に確認する、超地味な作業が絶対に必要になる。こういったものを総称して、兵站(ロジスティクス)というのである。
 
なので、「ロジどうする?」とは、言い換えると、「調達や手配はどうしますか?」ということになる。そのnoteを書いている人は、友人との旅行に行く際にも、「私、ロジやっとくね」などとつい言ってしまい、それが一般では通じない霞ヶ関用語だ、ということを自覚するらしい。

旅行の手配とは、つまりスケジュール管理や、電車や自動車などの移動手段の確保や、ホテルの手配など、多岐にわたるわけだが、たんに「手配」というと、ちょっと語弊があるかもしれない。「ロジ」は、もっと広い範囲を含むからだ。


 
「ロジ」があまりにも便利すぎるため、つい日常生活でも使いたくなってしまうのだが、かといってこれに対応する日本語が思いつかない、ということだった。前述の通り、それにズバリ該当する用語はすなわち「兵站」になるわけなのだけれど、日本人には全く馴染みがない。

つまり、概念として定着していないというか、抜け落ちがちな部分なのだ。

太平洋戦争中でも、まさにこの「兵站」の部分は軽視されがちで、東南アジアに出兵した兵のほとんどは、敵兵の弾に当たって死ぬよりも、疫病や飢餓によって命を落とした、というのは有名な話だ。
 
現アップルのCEOであるティム・クック氏も、このロジスティクスの専門家で、デザイナーやエンジニアが優遇されがちな同社においてかなり特異なキャリアであったにもかかわらず、ジョブズ亡きあと、CEOに躍り出た。90年代、Appleは先進的な製品デザインによってカリスマ的な人気を得ていたが、生産ラインは安定せず、不良在庫を多く抱えていたため倒産寸前だったという。

そういう状態をなんとか乗り越え、時価総額で世界最高の会社を作ることができたのは、彼のロジスティクスの力によるところが大きかったのだろう。


 
最近でも、半導体不足が叫ばれる中でトヨタが最高益を叩き出したけれど、やっぱりキーは半導体の確保にあったらしい。各社とも不足で苦しむ中、調達をゴリ押して市場を席巻したのだろう。どういう力技を駆使したのかは、想像するしかないが。ロジの力はあなどれないな、と思った次第。
 
自分の専門分野だから贔屓目にみるわけではないけれど、とても便利な言葉だな、と思う。
 
ロジ、意識していますか?

リンク:
【霞ヶ関用語②】サブ・ロジ、イチポツ問題。これが息を吐くように言えたら霞が関に染まったサイン。|霞いちか@霞が関の国家公務員|note 


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