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「自分」とは、余分なもの

コピーライターの人向けの本を読んでいたら、「コピーライターに向いているタイプ」として、「変で、素直な人」と書かれていた。

「変」というのは、他人と違うことが考えられるということ。「素直」というのは、人から言われたことに対して、柔軟に対応できる、ということだ。「変」の対義語は「普通」、「素直」の対義語は「頑固」になるらしい。

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(谷山雅計「広告コピーってこう書くんだ! 相談室」より)

この考え方は面白い切り口だと思った。大衆に刺さる文章を考え続ける必要があるコピーライターは「普通」では務まらないが、「頑固」なのもよくない、というのは新鮮だ。

ただ、「変」な人は「頑固」であることも多い。努力して「素直」に持っていくと、成功する可能性が高まるのだという。


 
「頑固」は、最近はポジティブワードだと思われることが多いが、それに少し違和感がある。たとえば伝統のラーメン屋などで、「頑固おやじのこだわりの◯◯」みたいなキャッチコピーで持ち上げ続けた結果だろうか。

頑固であるがゆえに、昔ながらの味を守っている、だからいい、というイメージらしい。しかし、頑固であるがゆえに、伝統は守れるかもしれないが、その先の発展はないだろう。本来はネガティブワードだったけれど、それをポジティブへの変換に成功したケースといえる。
 
頑固というのは、要するに考え方や行動を変えようとしないということだから、その延長に成長もない。というより、成長意欲のなさが頑固さに現れているのだろう。ほかの何かを吸収することで、自分を失うことを恐れている。

しかし、どれだけ外部のものを吸収しても変わらない根源が「個性」なのだから、変わることを恐れる必要はないのだと思う。逆に、いまの自分を変えるために、どんどん新しいものを探しては吸収していく人のほうが成長する、ということだろう。
 
実際、とんでもなく優秀な人は、ある地位まで上り詰めてもそこで満足せず、ちょっと常人では信じられないような行動に出る。以前読んだこの記事の人はすごかった。

ミシュランで認定されている星付きのシェフなのだが、休日にサイゼリヤでバイトしているのだという。具体的に書いてあるので、本当にやっているのだろうし、勉強にもなってるのだろうな、と。

サイゼでは160席を5人でまわしているということだけれど、これは本当に衝撃だったという。自身のレストランでは、24席に対してスタッフが12名らしい。

もちろん、サイゼの場合は店内調理とはいってもセントラルキッチンで大半の調理をしてしまったりするし、前提条件はかなり異なるのだが、学べるところは多いのだろう。少なくとも、「うちは高級店だから」とやり方を更新しようとしない姿勢は非常に危険だ。
 
また、ドワンゴ創業者の川上量生も、ジブリの鈴木プロデューサーに「弟子入り」して、プロデューサー見習いをやるなどの行動に出ていた。

すでにこのとき大企業の会長だったのに、弟子入りして下っ端みたいなことができるのはすごいですね。


 
自分も、新社会人時代に一番下っ端だったときに一番多くのものを学んだ気がする。やっぱり、その頃は右も左もわかっていない分「素直」だったのだろう。
 
子どもはけっこう言うことを聞かなくて頑固だし、歳をとっても頑固になる。素直さとは「自分をなくす」ということなのだろう。成長する人にとって、「自分」とは「余分なもの」なのだ。

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