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負の四拍子

ツイッターで流れてきたプロモーションのレディースコミックを流し読みした。

タイトルは「11年後、私たちは」。レディースコミックで、恋愛メインの作品なのだが、軽いテイストで読めてしまうのでつい読んでしまった。

一話一話はかなり短いが、全50話で完結していて、15話までは無料で読める。残りの部分は、あらすじをまとめているサイトがあったので、そこで読んでしまった。
 
簡単に言うと、三角関係の話である。主人公の千鶴と、11年間付き合った彼氏の優。最初はお互いの「いい」と思っていた部分も、10年の歳月を経て、だんだんと色あせていき、欠点にしか思えなくなる。そして、優の前に結衣という若い女性が現れて……みたいな感じ。

展開はいわゆる「ベタな」ものだと思うのだが、読んでいて面白いなと思った部分がある。
 
それは、作劇が人間関係のみにフォーカスして行われている、という点だ。会社などが舞台なのだが、どんな仕事をしているか、とかそういうのはほぼ出てこない。徹底して、人間関係のみを抽出して物語が進行していく。人形劇でも成立しそうなほどのシンプルさだ。

もちろん、登場人物は三人だけではなくて、脇役みたいなのがいろいろ出てはくるのだが、メインは4、5人。それでも、先を「読ませる」力はあるな、と感じた。
 
物語を進行させる原動力は、主に4つである。「妬み」「嫉み」「恨み」「辛み」。そこまで超ドロドロした感じではないのだけれど、その4つの感情が、作品全体に充満している。

ただ人間がそこにいるだけで、妬み嫉み恨み辛みというのは発生して、勝手にドラマになっていくんだなあ、ということに素直に感心した。
 
おそらく、二人だけの関係性だったら、関係に強弱があるだけで、躍動感のあるドラマにはならないだろう。「負の四拍子」とでも言うべきその4つがあるおかげで、ドラマとして引っ張るに足るものになる。

あまりそういうジャンルのものに興味がない僕ですら、続きが気になって読みたくなったほどだ。

村上春樹が、エッセイの中で、「自分には嫉妬の感情がない」ということを書いていたことがある。川上未映子との対談でも言っていた。確かに、村上春樹の作品には嫉妬はない。

なんか女の子が勝手に家から出ていって、喪失感を噛み締める、みたいなそんな感じの作品が多いように思う。あとは、なんか正体不明の怪奇現象に直面するとか。
 
村上春樹は、レディースコミックの世界とは対照的だ。ある意味では、「負の四拍子」がないぶん、読み味があっさりしている。裏を返せば、乾燥していて、人間味がない。
 
しかし、妬み嫉み恨み辛みなんてのは、日常を生きているだけでみんな実感しているものであり、レディースコミックを読みながら「あるある」と共感している人たちが大勢いるのだろう。

そういう点では、村上春樹の作品は本当の意味でのファンタジーである。現実離れしているからこそ、あれだけ人気があるのかもしれない。

負の四拍子がそこにあるだけで、物語は進む。逆にいうと、人生はそういった、よくわからないしがらみみたいな、面倒臭い感情で満ち満ちている。
 
余分な時間や労力をそこに使わないように。足をからめ取られないようにしたいものですね。

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