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「悪い人」ってどういう人ですか?

「悪い夏」という小説を読んだ。知らない作家の本だったが、たまたま手に取って読んでみたらなかなか面白かった。

ちょっとポップな感じの表紙(?)だが、内容はなかなかえぐいので、万人にお勧めできるような内容ではないのだが。

いわゆる群像劇というもので、視点人物がどんどん入れ替わっていくタイプの小説である。主人公はいないのだが、とある地方都市で生活保護のケースワーカーをしている青年から話がはじまる。

生活保護の受給者と、不正受給を目論む人と、それを食い物にするヤクザその他が、いろんな思惑をもって複雑に絡み合う。

最初は「こういう話なのかなぁ」と予想しながら読んでいたのだが、どんどん恐ろしい方向にねじ曲がっていき、結構とんでもない展開になっていく作品だった。

面白いのが、「登場人物全員が株を落としていく」話だというところだ。最初はこの人が正義感をもって物語を収集させていくのかなと思って読んでいたのだが、概ね期待はずれとなり、すごいところに着地した。アクロバットで、しかしどことなくスッキリしないお話である。

たまたまではあるのだが、生活保護回りの小説を立て続けに2冊読んだ(もう一冊は中山七里の「護られなかった者たちへ」)。生活保護の受給に関しては小説の題材として適しているのか、それなりに本が出ているようだ。

必要な人が受給できずにひどい生活をしているという話は聞いたことがある。しかし自分も何かの拍子に転落し、生活保護のお世話になることも考えられるので、社会のセーフティーネットとしては絶対に必要なものだと思う。一方、その制度を悪用して、本当は必要としていないのに受給する人がいることも確かだ。

また、ヤクザがバックに入って生活保護費をピンハネしているという話もフィクションではよく出てくる。生活保護を受給できそうなのに受給できていない人間はたくさんいるが、そういった人間に生活保護を申請させ、ピンハネするのだ。実際にこういうことが起きているのかは全くわからないが。

要するに、題材としても内容としても、「闇金ウシジマくん」みたいな話だった。

この作品は、闇金業者を経営するウシジマという主人公を中心に、彼を取り巻く「闇金に手を出した人たち」の様子を描く作品だ。なんだかんだ、このnoteでも引用頻度が高い作品である。生活保護を題材にしたエピソードもあり、まさにそれという感じだろう。



「善人」と「悪人」はどういう区分で分けられるのだろうか。いろんな物差しがあるように思う。

この作品を読んで思ったのは、「善人」とは「悪を撲滅しよう」と動く人のことだ。つまり悪を見つけたら真っ先に通報するし、撲滅のために動く。

悪人は違う。悪人は、悪を受け入れる。すなわち人が悪事を働いているのを見かけたら、それを通報したりしない。むしろそれをネタに強請ゆすり、自分の収益源にしてしまう。

悲劇とは何だろうか。何もない人間から何かを奪ってもそれは悲劇ではない。何事もなく、順風満帆な日常を送っている人が、実は弱みを悪人から握られていて、それをネタにさらなる悪事に手を染めていくこと、それが悲劇だと思う。そういう状況になったことを想像しただけで怖い。悪人と言うのは、悪とのバランスの取り方がうまい人のことを指すと思う。

結局、足元をしっかりすることが大事なんだろうな、と思う。ちょっとぐらいいいだろうと軽犯罪に手を染めたり、社会倫理に反することをしていると、それを見つけた悪い奴からゆすられ、最終的には破滅してしまう。高い社会的地位を持っている人ほどその効果は高い。

自分が損することをいとわず、火傷を負っても損切りができる人はそうはならないのかもしれないが、そんな人はなかなかいないだろう。

今の世の中まっとうに善人として暮らしていたら、そう簡単には足元を救われないものだ。しかしちょっとでも火遊びをすると、運が悪ければとんでもないところに連れていかれてしまう。小さい悪は大きな悪を呼び寄せるのだ。

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