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なぜトレーニングで怪我をするのか?

ハンマー投げ選手の室伏広治が独自のトレーニング理論を教えてくれる動画を見た。

なぜこれが流れてきたのか全くわからないのだが、見てみるとなかなか興味深い内容だった。あまり聞いたことがない理論だと思うのだが、どうなのだろうか。

詳しくはこの動画を見てもらえばわかるのだけれど、人間の肉体的なピークはせいぜい30歳ぐらいまでで、それ以後は筋力も骨格も可動域も衰えていく一方なのだという。

では、30歳を超えても活躍できるスポーツ選手は、どこが優れているのかというと、身体をコントロールする「脳」の部分なのだという。車に例えると、ボディやエンジンが「身体」、それをコントロールするドライバーが「脳」だと。どんなにマシンスペックが高くても、ドライバーがポンコツだと能力を十分に発揮できない。これはなかなか興味深かった。

僕はサッカーが全くできない。というか、学生時代以来やったこともないので、たぶんドリブルも満足にできないだろう。身体ができていないのでスポーツができる状態ではないというのはその通りだと思うのだが、それ以上に、「身体をコントロールする」脳が全くできていない、と思う。

スポーツで反復練習をする目的としては、その運動に必要な筋肉を作ることはもちろんだが、反復練習することによって、「脳の回路を作っている」のでは、と思う。反復練習を続けるうちに、ほとんど自動でその運動ができるようになる。考えてからではなく、無意識に、反射的に反応できるようにする、というのがひとつのゴールだと思う。

僕が経験があるのはスポーツではなく楽器の練習だが、ギターを弾く練習を一生懸命やっていたときは、一つのフレーズを練習していても、日に日に自然に、何も考えずに弾けるようになるのが楽しかったのを覚えている。それは、指をコントロールする「脳と神経」が発達したからなのだろう。

だが、室伏広治によれば、まったく同じ動きをただ反復するだけだと、特定の部位が摩耗してしまい、ケガにつながりやすくなるのだという。なるほど。

そこで、独自のトレーニング法として、バーベルに重りをぶら下げて、動きを複雑にし、毎回微妙に違った運動をする、というやり方を取り入れているらしい。これはかなり面白い。

最近、ボクシングの井上尚弥選手にハマり、試合の動画などだけでなく、技術的に解説している動画などもたくさん見ているのだが、ボクサーの身体というのは非常に興味深い。基本的にヘヴィ級以外は体重別に階級が分かれており、自分の適性階級に合わせて身体を絞り込んで試合に臨む。

なので、試合中の選手の身体はガリガリである。特に腕などはとても細いので、あんな身体からどうやってハードなパンチが生み出せるのか、疑問である(パンチは背筋から生み出されると言うが、いずれにしても細い)。

イチローが現役時代にこたえていたインタビューで、ウェイトトレーニングに関するものがあった。イチローは若い頃から身体が比較的小柄だったので、オフシーズンには筋トレに励んでいたのだという。

すると、シーズンがはじまったばかりの頃は、筋肉が大きすぎて動きにくく、あまりいい成績は出せないのだという。しかしシーズンが進んで身体が細くなってくると、また俊敏に動けるようになり、成績が上向く、と。

最初のうちはそんなことばかり繰り返していたが、あるときから、「筋肉を肥大させるトレーニングは逆効果」ということに気付いたらしい。なるほど。

井上尚弥の話に戻すと、井上尚弥選手の強みは、「必殺のパンチ」ではなく、すべての技術の総合力にあると思われる。フットワークも一流、ディフェンスも一流、もちろんパンチも一流。パンチが強いだけでなく、「狙った場所に当てられる」精度もすさまじいのだという。

そして、相手のカウンターに対してカウンターを合わせられるほど、神がかった反射神経も持っている。こう見ると、ボクシングの強さとして何か尖ったパラメータがあるわけではなくて、完全に総合芸術だな、と思える。

バランスが整っていて、すべてが研ぎ澄まされており、それをコントロールできているのだ。室伏広治の理論に照らし合わせると、身体が一流で、それをコントロールする脳も一流、ということなのだろう。

僕も筋トレをするが、同じことの反復ではなくて、もっと総合的に身体を使うことをしたいな、と思っている。単調なトレーニングもいいが、身体を大きくするのではなく、身体全体をコントロールしたいな、と。



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