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小説で食べていくことは可能なのか

ちょっと関心があったので、文学新人賞について調べていた。僕は新人賞に4回応募したことがあるが、自分が応募した以外の賞や、受賞作についてあまり詳しくは知らなかったからだ。

僕は大学生の頃は小説家になるつもりでおり、就職することに対して明確なイメージを持っていなかった。しかし、自分が書いた渾身の小説が、応募した小説の一次選考にも引っ掛からなかったことに加え、「小説で食べていくのはおそろしくハードルが高い」ことを知り、就職しながらものを書くことにした。

結果的に、社会というものを知らないと小説を書くことはできないので、その選択肢は正しかったのだと思ったのだが、本当にその通りだと思った。
 
文学新人賞というのは、「文壇」でデビューしたい新人のために開かれている賞である。「文壇」なるものが本当に存在するのかは知らないが、とにかくそういうところで賞をもらうと「プロ」として「デビュー」した、ということになるらしい。

簡単に言うと、大きな賞をとると本を出してもらえるので、業界に名前を知ってもらうことができる。小さい賞などはたくさんあるのだが、大きな賞であればだいたい10ぐらいあり、だいたい年一回のペースで作品を受け付けている。

応募作品は、大きな賞であれば2000作ぐらい送られてくるらしい。雑誌などに応募方法が載っているので、小説を書いて、印刷して、そこに送りつけると審査してもらうことができる(どう考えてもデータ入稿のほうが効率がいいと思うのだが、なぜかいまだに紙の原稿を受け付けるのが主流のようである)。

どうでもいいことだが、それだけの数の作品を受け付け、審査する、というのは膨大な作業量なので、作品を送りつけるだけで無料で審査してくれる、というのはすごいことだな、と応募するたびに思っていた。
 
応募作品は2000作ぐらい、と書いたが、お気づきの通り、受賞作は基本的には1作品だけなので(例外的に受賞作が2作あったり、受賞作なしのときもある)、倍率でいうと2000倍である。万馬券を買ったり、宝くじを買ったりする感覚に近い、ということがわかる。


 
興味が湧いたので、10年前に新人賞を受賞した人がいまはどうなっているのか、調べてみた。

1・2冊発行してそこで終わっている人もいるが、コンスタントに毎年出している人もいる。だいたい比率でいうと、毎年出しているレベルの人は1~2割ぐらいだろうか。たまに、芥川賞を取ってスマッシュヒットを出している人がいるのだが、そういう人は数年に一度いるかどうかだ。
 
小説の印税は10%ほどと言われ、だいたいの金額でいうと、一冊本が売れるたびに100円が著者の懐に入る。いまは小説なんてほとんど売れないので、新人作家の本は初版が2000部とかそんなものらしい。ということは、印税収入は20万円ほどになる。
 
先ほど、「文学新人賞受賞者の2割ぐらいは、毎年レベルで本を出している」と書いたが、仮に発行部数が2000部だったら、年収でいうと20万円になる。仮に相当売れていて、1万部だったら、年収100万円。

そういえば、僕が大学生の頃はアルバイトをしていたが、年収が100万円ぐらいだったので、だいたいそれぐらいなのだ、ということがわかる。
 
公募ガイドで文学新人賞の数がどれぐらいあるかを調べたら、137もあることがわかった。ということは、毎年、137人もの新人が「デビュー」している計算になる。

しかし、そのうち、専業で「食えて」いるのは、小説稼業の業界全体で200人にも満たないと言われる。しかし、上記の数字をみるにそれは納得で、やっぱり年収にして300万円程度はないと、「食えている」とはいいづらいのではないだろうか。


 
もちろん、「小説で食う」というのにもいろんな考え方がある。

たとえば、一冊あたり100円しか収益の入らない既存の出版のシステムならば、月30万円を稼ごうとした場合に、毎月3000人に対してサービスを提供しなければならない。頑張って、一人あたり1000円の収益をあげられる方法を考えれば、毎月300人ですむ。逆に、30000人に手にとってもらう方法を考えれば、一人あたりからの収益は10円でいい。

そういう、発想の転換が必要なのかもしれない。
 
村上春樹や東野圭吾など、誰もが知っている人気作家のことを考えると、なぜかそういう職業が存在しているかのように思われがちだが、実際は職業としては存在していないのかもしれない。
 
とはいえ、小説を書くことは楽しい作業だ、というのは事実だ。商売を抜きにして、書くことを楽しむ分には、素晴らしい行為だと思う。

いろいろある趣味のひとつとしてやってみる、というのは悪い選択肢ではないだろう。見返りなど何も求めずに、書きたいものを書くのが一番楽しいはずだ。

「もしかしたら億単位の金が入ってくる」、という可能性を秘めている点では、夢のある趣味である。

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