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スーツと部族

久しぶりに社外との打ち合わせがあった。

緊急事態宣言が明けた現在にあっても、危機管理意識にはそれぞれの会社ごとに差異があり、厳しいところはまだそれなりに厳しい。

しかし、僕が会ったのはメディア関係の人だったので、比較的ゆるかった。
 
はじめて会うわけだが、依頼はこちらから営業をかけたわけではなく向こうからきた依頼だったし、たぶん打ち合わせ以上の意味はもたないだろうから、とノーネクタイのスーツで訪問した。

とはいっても、けっこう大きな仕事なので、大丈夫かな……とちょっとだけ出かけるときに逡巡したけれど、大丈夫だとすぐに思い直した(結局大丈夫だった)。
 
服装、つまりドレスコードというのは業種によって少し意識が違う。IT系とかだとスーツを着ることのほうが珍しいだろう。

僕の業種は、別にどっちでもいいのだが、なんとなく無難なのでスーツを着ている。無駄に目立たないのが大事だ。特に社外との打ち合わせもない、会社に在席していればいい日のときはビジネスカジュアルでもいいことになっている。

女性などはかなり自由に、普通にTシャツとかを着たりしている。

金融関係はかなり「堅い」ので、かなり暑い日でもジャケットを羽織ってきたりする。以前、うちの会社にやってきた銀行マンにそれを指摘すると、「そういう会社なので……」と苦笑いしていた。

見たことはないが、オフィスでは全員上着を着ているのだろう。暑苦しい環境だ。

ネクタイをきちっと締めている相手に対しては、話し方も当然ちょっと硬くなってしまう。
 
金融関係者は服装とマナーをかなり気にする。別にそういう職業だからどうだというわけではないが、仕事の内容が「堅い」というよりは、性質が「やくざ」なものだからだろう、と僕は思っている。

お金を貸し付けて利子を得る仕事で、もちろん社会的意義の大きい仕事だが、ラフな格好でお金の話をしていると相手を威圧してしまう。

だから、無個性なスーツに身を包むことによって、それを覆い隠しているのだろう。あのスーツは、ギリースーツ(擬態)の役割を果たしているのかもしれない。
 
僕は、ネクタイとジャケットを着るかどうかを判断するとき、「そのミーティングが、『儀式』かどうか」ということを意識する。

相手が上場企業の部長とかであっても、すでに気心が知れていて、ただの打ち合わせなら、ノーネクタイで行ったりする。しかし、初対面だったり、何かの契約の場だったりすると、「打ち合わせ」というよりは「儀式」の要素が強いので、ネクタイとジャケットは必要だ。

海外出張のときなどはこの傾向がさらに顕著になる。普通の打ち合わせだとポロシャツとかで行ったりするが、現地法人の社長へのはじめてのアポだったりするとジャケットは当然着て行く。

TPOという言葉は好きではないが、自分でもけっこう意識していることがわかる。

前に、ブロガーの「借金玉」という人が、「会社のマナーや風習は、『部族の文化』だと思って深く考えずに従う事」と書いていたのだが、まさにそのとおりだと思う。
 
重要なのは、それが「儀式」であるかどうかということと、相手へのフランクさをどの程度必要とするか、というところだと思う。言葉遣いなんかも、そうやって柔軟に調整できるといいですね。
 
意図的にタメ口をきいたりすると、ぐっと距離が近づくので僕は多用するのだけれど、なかなかリスキーなので踏み込みすぎは禁物……。

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