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「成瀬は天下を取りにいく」を読んだ

本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りに行く」を読んだ。

本屋大賞を受賞したから読んだわけではなく、たまたま読んでいたら、読んでいる最中に本屋大賞をとったのである。あまりのタイミングにちょっとびっくりした。が、そもそも人気のある本だったようなので、そういうものなのかも。

しかし、なんか流行に若干フライング気味にタッチしたような感じがして、ちょっと気持ちいいような感じがした。

本屋大賞は、出版社が新人発掘を目的として主催する文学新人賞などとは違い、本屋の店員が売りたい本を投票する賞で、最近ではかなりの影響力を持っている。実質的に文学賞的なもののなかでは影響力が最大とも言われている。

この賞についてはこれまでそこまでネガティブな意見はあまりなかったと思うのだけれど、最近は「そもそも売れている本がさらに売れるだけの賞」とも言われており、若干冷ややかな目線もあるようだ。

しかし、どちらにせよ文学界なんて斜陽産業であることに変わりはないんだから、別にいいじゃん、という気もする。内容はかなりライトめではあるものの、読みやすいし、面白いし、いいな、と。

さて「なるてん(勝手に略した)」である。主役は成瀬あかりという女子中学生(物語開始時点)だが、連作短編の形をとっており、章によって視点人物が入れ替わる。

成瀬は超人的な能力をもっているわけではなく、平均より少し努力するタイプで、ちょっとだけ能力が高い子として描かれている。そこまで派手にすごい子というわけではないのだけれど、周囲の目を気にせず突飛な行動をとる。

突然ライオンズのユニフォームを着て閉店が迫る西武百貨店に通いつめたり、M-1に出場してみたり。特にやりたいことが明確にあるわけではなく、そのときどきのマイブームで動いている感じ。

しかし、行動力がすごい。思いついたことは、どういう形であれ実行する。周囲からはやや浮いている。そういう存在。周囲はいじめたりすることなく、若干引きながら、遠巻きに眺めている、といった感じ。

特筆できる点があるとすれば、一貫して成瀬は「緊張しない性格」という書かれ方をしていることだろう。漫才を人前でやることになっても、全然緊張しない。おそらく、他人の目を気にしたり、うまくやってやろうという気持ちがあると緊張するのだろう。他人にどう思われても自分のやりたいようにやる、その気持ちを徹底していれば緊張はしないんだろうな、と思う。

成瀬は若干サイコパスっぽい書かれ方をしているのだが、別にサイコパスというわけではないんだろうな、と思う。ただストレートで、純粋なのだ。マインドが子どもというか。つまり、みんなの心の中に成瀬はいて、それを邪魔する何かもいるので、内なる成瀬が顕現しない、ということなのだろう。

つまり、「成瀬は天下を取りに行く」は、天下を取りに行こうとする成瀬がいるのではなく、みんなの中の「天下をとろうとする自分」が成瀬の形をとっているようにも読める。だから面白いし、共感もできるのだ。

出版社は「かつてなく最高の主人公、現る!」と煽りまくっているが、まあ実際にはそこまででもない。でもよい作品でした。続編もあるみたいなので、また読んでみたい。


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