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粘り強さ VS スピード感

昔からハッキリさせたいことのひとつが、やや抽象的な話になるのだが、「物事は成功するまで粘り強く継続したほうがいい」のか、それとも「すぐやって結果が出なかったら、すぐに方向転換したほうがいいのか」ということだ。

結局、これらは結果論であり、どっちがいい・悪いと断定できるようなことではないと思うのだけれど、今日は少しこれについて考えてみたい。
 
このふたつは相反する考え方でありながら、社会ではふたつのメッセージが混在している。「成功したなかったのは、成功するまで続けなかったからだ」みたいな言葉はけっこうありふれていて、いろんな人がいろんなところでよく言っている。一方で、最近では「ひとつひとつの勝率は低くても、いろんなことを試すことでたまに成功することがある」みたいな話もけっこうよく聞く。

前者は、わりと伝統的な日本企業によくある考え方で、後者は最近業績を伸ばしている企業に多いようだ。
 
投資の世界では、「サンクコスト」という考え方がある。「埋没コスト」などと訳されることがあるが、これはどういうことかというと、「もうすでに投じてしまったコスト」のことだ。たとえば、一億円を投じてしまったプロジェクトがあったとする。一億円はもうすでに投じてしまっており、その事実は取り消せないものとする。

この場合、重視すべきは、「この先、このプロジェクトを継続することで、投じてしまったコストを取り返せる見込みがあるかどうか」で、すでに投じてしまった一億円がもったいないから、という理由で、回収できる見込みもないのに事業継続すべきではない、とされる。つまり、その時点で「切って」しまったほうが得だ、というわけだ。

これは本当に正しいのだろうか。撤退してしまったら、投じた一億円は丸損、ということになる。


 
おそらく、正解はないのだと思う。例えば、あとちょっとでプロジェクトが成功に結びついたかもしれないのに、その直前で撤退してしまってもったいない、ということはきっとあるだろう。

でも、継続していれば必ず投じたコストが回収できる保障なんてないわけで、それはやっぱり結果論、ということになる。継続していれば、さらに傷口を広げるだけ、という結果だって当然ありうるわけだから。
 
昔、投資家の新井和弘という人が、テレビのドキュメンタリ番組で投資の原則みたいなものについて語っていた。曰く、重要なのは「決める」ことだと。自分の中でルールを決めたら、必ずそれを遵守する。それに徹することが重要だ、と。

人間は、欲望に目が眩んで判断を誤ってしまうものだから、先にルールを決めておいて、愚かな人間の欲を制御する。それが勝つ秘訣なのだと。
 
そういう意味でいうと、「撤退するときのルール」を事前に決めておく、というのは決定的に重要なのかもしれない。「このラインまでは挑戦するけれど、このラインを超えたら絶対に撤退する」と。こういうのができているところとできていないところで差が出てくるのかな、と。

この点については、いろんな新規事業を立ち上げることで有名なサイバーエージェントの藤田晋が似たようなことを言っていたことがある。


 
前に僕が勤めていた会社は、いろんな奇抜なことに手を出すのだけれど、この「撤退ルール」が不透明だったために、社員である僕らは非常に苦労した。

以前手掛けていたプロジェクトで、見込みがないので撤退したはずだったのに、ふとした拍子に社長が「あれってどうなってたんだっけ?」みたいに、撤退した事実がなかったかのように蒸し返して、またそれの進捗を追いかける、みたいなことが多々あった。

数年前の思いつきを何年も経ってもいまだに追いかけていたりして、非効率なことこの上なかった。そんな社長には、サンクコストの話が大嫌いで、そんな話をしても火に油を注ぐだけだった。まあ、信条は人それぞれなので、何が間違っている、と僕が断定することはできないのだけれど。
 
現代においては、成功に結びつけるまでの粘り強さよりも、いろんなことを試しては実行していくスピード感のほうがより姿勢として求められる、ということなのかもしれない。

もちろん言うは易しで、実行して、成功に結び付けていくのは大変なことなのだけれど。

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