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水槽の水質が全てなのか?

会社から何人かが退職した影響で、連鎖的に退職が相次いだ。

辞めていった人たちの気持ちはわかる。つまり、人が減れば自分への荷重が高まるのは当然であり、労働環境がさらに悪化すると予測したのだろう。社内全体がそういったムードに包まれ、連鎖的にどんどん人が辞めていった。
 
ただ幸か不幸か、コロナの影響で仕事の量が激減してしまった。こうなると、仕事が回らないという課題はとりあえず、解消された。あとは、会社としてどれぐらいこの状況で持ちこたえられるかということだ。
 
幸いにしてうちの会社はかなりのキャッシュリッチで、当然ながら無借金経営なので、1年以上仕事がなかったとしても倒産する事はない。

いなくなった人を補填するために採用活動に注力し、この仕事の少ない時期に研修などをして、コロナのピークが通り過ぎるのを待つ、というのが今の主要な方針となった。

環境が悪くなった、悪くなりそうだからそこから離脱する、と考える人を僕は非難しない。やはり会社員は基本的には「雇用されている」存在であり、権利として労働契約はいつでも破棄することができる。

もちろん、企業経営は法律の範囲内で行われるものであり、違法な負担を強いる会社にいつまでも居続ける義理はないだろう。もちろん、当社は法令を遵守するまっとうな企業である。
 
幸いにして(?)、僕は新卒で入った会社がかなりのブラック企業だったので、それなりに「耐性」ができている。多少負担が増えたところでどうということはない、というのが正直なところだ。

転じて今は転職市場が大盛況で、優秀な人材がゴロゴロいるので、辞めていった人たちの代わりは正直言ってかなりたくさんいる。あと半年もして、採用した新人が前線で活躍するようになれば、以前よりも強力なチームになるのではないかとすら思う。
 
会社員と言うのは、水槽で飼われている熱帯魚のようなものだ。ただし、刻一刻と、水質が悪くなったり、餌が少なくなったり、魚が多くなったりと環境が変化していく。
 
多くの場合、水質は外部要因によって決まり、自分でコントロールはできない。しかし、ちょっと居心地が悪くなったからといってすぐ隣の水槽に移るということを繰り返していると、「結局自分は何を大事にしてるのか」ということがわからなくなってしまう。

つまり、外部要因によって自分のモチベーションを変えるという、極めて「受け身」な生き方になってしまう。
 
自分が何を大事にして、何を目的に働いているのかということを明確にする、というのは悪くはないと思う。僕は転職をするときに今の会社の社長に宛てて送ったメールがあるのだが、そこでは転職のための動機が率直に綴られている。
 
たまにそのメールを見返すことがある。簡単に言うと、自分のスキルアップのために今の会社に来たのだが、今のところその状況は確保されているので、まだ会社に残っているというわけだ。
 
急に水槽の温度が上がったり水質が悪くなったりすると、びっくりするので、外に飛び出ていきたくなる気持ちもわかるが、そもそもの前提条件として、いついかなる時も「快適な環境」でいられるとは限らない。

もちろん無理をして、体を壊してしまったら元も子もないのだが、状況をしっかりと、冷静に見極めた上で行動したいと思う。

これは余談なのだけれど、就職の説明会などで、よく会社の福利厚生についての質問をする就活生がいた。僕は、この質問に意味を感じない。人事担当は耳あたりのいいことを言うだけだ。

「福利厚生が充実しているからいい会社」というのでは、いかにも思考が浅い。それよりは、なんとかして会社の財務諸表をチェックしたほうがいいと思う。
 
上場企業ならウェブサイトで公表しているIR資料があるはずだし、非上場企業でも財務諸表の提出を求めれば応じてくれるところもあるはずだ。もし応じてくれなくても、帝国データバンクという調査会社にお金を払えば、その会社の業績や財務諸表などを閲覧することができる。

その後、「自分を投資する」と考えれば、決して悪くない調査費用だろう。
 
福利厚生と言うのは要するに飼っている熱帯魚を快適に過ごさせるための方策にすぎない。積極的に「飼われ」にいくよりは、財務諸表を読んで状況確認をしたほうがよい。

いくら経営陣が「いい人」であっても、会社にお金がなければ良い労働環境なんて提供できるはずがないのだから……。
 
今の時期、これから数年にかけては、そんな安泰な企業などそうそうないだろう。会社として生きるか死ぬか、そういう局面にかかっている。

知恵をはたらかせて、生き延びていきましょう。

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